ファッション

2026.09.25 20:00

ブルネロ・クチネリが考える 善き人になるための服と友愛

ブルネロ クチネリの服は、着た者に洗練された雰囲気をもたらすだけでなく、着用者に、善良であることの尊さを諭してくれる。それはこのブランドを創造したブルネロ・クチネリの友愛の精神が着る者に広がり、ついには善き人へと導いてくれるのだ。


ブルネロ・クチネリが人々へメッセージを発信する際、よく使うのが「善き人でありなさい」という言葉である。人間にとって善き人、つまり善良であるためには、どんな心意気をもち、どう行動すべきなのか。あらためて本人に聞いた。

モノづくりにも生きる 父から受け継いだ教え

「“善き人”とは“品位ある人”とも言い換えられますが、これは私が父から受け継いだ教えです。父は100歳という素晴らしい人生を生きましたが、“どんなときも善き人でありなさい”と言い続けていました。その言葉には、人との美しい関係や礼節、相互尊重、そして人間の尊厳といった、シンプルで本質的な倫理観が込められていたのです。私はこの教えを仕事にも反映させようとしてきました。原材料の選定からお客さまとの関係に至るまで、仲間たちとともに“正しく物事を行う”ことを心がけてきたのです。すなわち私たちの服は単なる製品ではなく、“人間主義的資本主義(Humanistic Capitalism)”と“人間的持続可能性(Human Sustainability)”という価値観を体現するものなのです」

品位とはいわば、人としてのあるべき理想像である。だが、ブルネロ・クチネリが父から受け継いだ教えは、決して高慢なものではない。他者への礼節や尊重、尊厳といった、人間が社会でより善く生きるためには欠かすことができない、根幹的な素養ばかりだ。氏はその教えを誠実に守るだけでなく、普遍的な哲学ととらえて仕事にも貫いた。だからこそブルネロ クチネリのエレガントな服は正しき品位を備え、世界中の善き人々の琴線に触れたのである。そしてそれは人間主義的資本主義と人間的持続可能性という独自の経営理念へと帰結し、国境を超えて多くの経営者に影響を与えるに至ったのだ。そんなブルネロ・クチネリが、近年折に触れて語るのが「友愛(Fraternity)」と「調和(Harmony)」という言葉である。そこにはどんな思いが込められているのだろうか。

「友愛と並び、私が思い浮かべる教えの言葉は調和(Harmony)です。私にとって、その教えの師はアッシジの聖フランチェスコでした。彼は死ですら“姉妹”と呼ぶほどの人物であり、彼ほどの人間関係の天才はいないと思います。そもそも平和とは本質的に、“民族同士”“西洋と東洋”“他者と自己”の間に、調和を見いだそうとする営みです。私は最近『平和への手紙』(※ブルネロ・クチネリが世界へ発信するメッセージ)で、アンブロージョ・ロレンツェッティの有名なフレスコ画『善政の寓意』に触れました。そこに描かれているのは、人々の良い関係が社会を支えるということです。それは服にも同じことがいえます。

つまり、自然を尊重し、持続可能で長く使える服を選ぶこと。それは私が“Gentle Luxury(節度あるラグジュアリー)”と呼ぶ価値観につながっています。そして私たちは平和の美しさだけでなく、人々の微笑みや星空、あるいはツバメのさえずりのような、日常の美しさにも心を開くべきなのです」

民族や洋の東西を超え、世界中の人々が尊重し合い、調和しながらハーモニーを奏でること。人々が自然の美しさに気づき、地球環境の持続可能性を最優先させること。ブルネロ・クチネリが提唱する「節度あるラグジュアリー」とは、そんな善き世界を構築するうえでも不可欠な価値観なのだ。服は着る者に大きな影響を与えるもの。そして服には人格が投影され、時には着用者の人格そのものを形づくるといっても過言ではない。だからこそブルネロ クチネリの服は、善き人、品位ある人に選ばれる。そして着用者を洒脱に仕立てるだけでなく、善き人へと導くのである。

ウェルドレッサーとしても注目されるブルネロ・クチネリだが、その装いはあくまでエレガントであり、控えめである。そこにはファッショニスタ的な自己主張ではなく、周囲を尊重する気遣いが見て取れる。それはまさしく品位ある装いであり、善き人を体現する正しいスタイルといえよう。
ウェルドレッサーとしても注目されるブルネロ・クチネリだが、その装いはあくまでエレガントであり、控えめである。そこにはファッショニスタ的な自己主張ではなく、周囲を尊重する気遣いが見て取れる。それはまさしく品位ある装いであり、善き人を体現する正しいスタイルといえよう。

善き人へと仕立てる 正しき服のもつ力

「服には人を変える力があると、私は確信しています。だからこそ私たちは、服づくりの拠点であるソロメオにおいて、“物事を正しく行う”ことを常に大切にしているのです。例えば、素材や仕立て、細部への配慮です。しかし、それだけではありません。服は着る者の価値観を伝える媒体でもあるのです。だからこそ、私が人生を通して大切にしてきた価値観、原則があります。それは“利益と贈与の調和”です。そのために遵守すべきなのは、人間の尊厳を中心に据えること。そして穏やかな成長と、正しい利益を追求することなのです」

資本主義の名の下においては、とかく優先されるのは経済性であり、そこに正しさは必ずしも伴わないものである。だが、あらゆる物事には、経済性を超越した正しさという価値観が、確かにある。服にも正しい素材や仕立て、細部があるのだ。そしてそんな細部まで配慮された正しく、善き服は、着る者をも正す力があるのである。

「私の祖父フィオリーノは、農業を営んでいましたが、収穫の際に最初の麦束を地元の共同体へ捧げたそうです。これはまず社会と調和すべく、還元するという考え方です。また現在の職人たちは、利益と贈与の調和にのっとり、経済的にも道徳的にも尊厳ある報酬を受け取るべきなのです。そこには何か、高貴なものを感じます。そして倫理と尊厳に従って自らの責務を果たしたのならば、あなたが着ている服は善い服であると、あらためて私は思うのです」

ブルネロ クチネリ ジャパン
www.brunellocucinelli.com

direction by Akira Shimada | photographs by Kazuki Nagayama | styling by Makoto Yoshino hair & make-up by Takeshi Kato | text by Yasuhiro Takeishi

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