「そこにいる意味」を問い、建築と現代美術を往復する(成定由香沙):30 UNDER 30

成定由香沙|建築家/アーティスト

成定由香沙|建築家/アーティスト

Forbes JAPAN 2026年10月号は、日本発「世界を変える30歳未満」30人特集。

9年目となる今年の受賞者は、AI革命の真っただなかで先頭に立ち、想像力、知性、そして並外れたグリット(やり抜く力)をもって、「自分が思うより良い未来」を目指す30人だ。彼ら彼女らがつくる「 新しい社会、新しい経済」から見えてくるものこそが、日本の未来の希望になる。

「言葉にすることは好きですが、もっと受け手に委ねてみたい──」。今後、建築と美術、双方の分野で活躍を期待される成定由香沙の現在地とは。


幼い頃から美術に興味があった。中学生の頃、家族旅行でフランスを訪れ、ミュージアムで働く学芸員やデザイナーの仕事に憧れていた時期もある。得意な理系科目と好きな美術・デザインが交わる分野の進路を模索し、「大きなスケールで学んでいれば、小さく転換できる」との助言を得て選んだのが建築だった。

建築学科では卒業論文でなく卒業設計が課題となる。そこでは一般的に、「アンビルド」がテーマとなる。現実の施工や法規にとらわれない自由な思想や構想で「架空の建築」を提案するというものだ。「それならいっそ、フィクションであることが最も強い構造になりえないか」と、成定は思考実験のように、現実世界では大きすぎるスケールから構想を始めた。

2021年、当時激化していた香港の民主化運動と、かつての占領国だったイギリス、そして中国との歴史や関係性に注目。従来とは異なるメモリアル建築を提案した「香港逆移植」は、数々の賞を受賞し、若手クリエイター支援で知られるクマ財団の支援生に採択され、建築と、憧れていた現代美術の二つの領域での制作が始まった。

大学院は、東京藝大の美術研究科建築専攻へ。2024年の修士設計では、廃炉になった原子炉と、核のコロニアリズムを題材とした「行方不明者の家」を発表。「見えないものへの想像力」というテーマを起点に、キュレーターやアーティストらと福島へリサーチトリップに赴き、コツコツとかたちにしていった。

翌25年には個展「Over My Head」を開催。「頭上を超えてゆく」と「難しすぎて手におえない」といったダブルミーニングのタイトルを掲げ、建築模型と、日常で「あたまの上」を撮りためた写真を組み合わせて構成。身近なところから、大きなテーマであるがゆえになかなかふれられない社会問題などに対して想像を巡らせることを試みた。

2025年にCalm & Punk Galleryで開催した個展「Over My Head」の様子
2025年にCalm & Punk Galleryで開催した個展「Over My Head」の様子(C)Naoki Takehisa

「昔から正義感が強く、強さと弱さ、その双方に興味があった」という成定は、取り上げる題材がかわろうとも権力や関係性を見つめる視点が一貫している。

実家には、“母の部屋”がなかった。その母が家のなかをすっかり片付けた。その出来事をきっかけに、自身の母と家族へのインタビューと写真で記録してきたプロジェクトは、2022年のスタートから3年、「Moving, or Staying」と題する展示に。フェミニズムへの関心が形になった同作は、近く韓国・ソウルでも展示予定だ。

世界を変えうる30歳未満にフォーカスする企画「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」、9年目となる今年も30人の受賞者を選出。これからの未来をつくる彼ら・彼女らが描く「希望」と「新しい未来」へ、ようこそ!

【30 UNDER 30 特集号が現在発売中 / 受賞者一覧を特設サイトにて公開中

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文=Naomi 写真=帆足宗洋(AVGVST) スタイリング=鹿野巧真 ヘアメイク=MIKAMI YASUHIRO

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