これまで、AIインフラのストーリーは大半がハイパースケーラーによって定義されてきた。彼らのエネルギーへの飢餓感は非常に旺盛で、かつては考えられなかった「ギガワット」という単位で測定されるようになっている。
今年はじめ、xAIの「Colossus 2」の創設者は、同施設が世界初となる完全に稼働したギガワット規模のAIデータセンターであると主張した。インディアナ州にあるAWSの「Project Rainier」は2ギガワットを目標としており、ルイジアナ州にあるメタ(Meta)の「Hyperion」は最大5ギガワットまで拡張できるよう設計されている。そして、こうした数字は新たなプレスリリースが出るたびに跳ね上がっている。ユタ州は4月に9ギガワットのキャンパスを発表したが、これは比較すると、ユタ州全体が現在使用している平均エネルギーの2倍以上に相当する。
ウォール街がこうした派手な見出しに注目するのも無理はない。しかし、投資家たちはハイパースケーラーだけがAI演算(コンピュート)のすべてではないことに気づきつつある。ハイパースケーラーが対応できないソリューションを提供できる、より小規模な「モジュラー型データセンター」に、見落とされがちな商機が芽生えつつあるのだ。
純粋な電力規模と電力への近接性
ハイパースケールを支持する主張は、まっとうな経済的論理に基づいている。ワークロード(処理負荷)をどこで実行してもよいのであれば、電力が最も安く、演算密度が最も高い場所で実行する方が有利だからだ。フロンティアモデルの学習をルイジアナで行おうが、アイオワやアビリーンで行おうが関係ない。なぜなら、成果物は事後的に転送されるからだ。しかし、AIワークロードのかなりの部分はそうした性質のものではない。学習済みモデルが特定の管轄区域内のユーザーやデバイスに対してリアルタイムでクエリ(問い合わせ)を処理する「推論」のワークロードにおいては、中央集権化と距離が深刻な問題になり得る。
投資家が建設場所を決定する際に考慮すべきポイントをいくつか挙げる。
レイテンシ(遅延)
最初の制約は「物理学」だ。トロントとテキサス州中部のハイパースケール施設との間でデータ信号が往復する距離は、約3400マイル(約5470キロメートル)に及ぶ。光ファイバーを光速で移動したとしても、この往復だけで演算処理が始まる前に約30ミリ秒のレイテンシが生じる。これにネットワークルーティングのオーバーヘッドや、大陸をまたぐ推論の現実的な遅延を加えると、最終的なレイテンシは60〜100ミリ秒の範囲に達する。
このようなレイテンシは、リアルタイムの入力に対してほぼ即座に意思決定を下さなければならない自動化ワークロードにおいては極めて重要となる。手術支援ロボット、工場の自動化、自律型物流、リアルタイムの不正検知などは、いずれも許容されるレイテンシが1桁から2桁台前半のミリ秒単位で定められている。
データ主権と規制に基づくローカリゼーション
特定のカテゴリーのデータ、特に政府、医療、金融、重要インフラなどの分野において、データの常駐(データレジデンシー)やローカリゼーション(現地保存)の要件を課す管轄区域が増えている。これは例えば、欧州に本社を置く銀行が顧客の取引データに対して推論を実行する際、そのワークロードをバージニア州にあるハイパースケール施設などを経由させてはならない、といった事態を意味する。同様の規則は、ソブリンクラウド要件下の政府データや、国際武器取引規則(ITAR)の対象となる防衛関連データにも適用される可能性がある。
運用のレジリエンスと集中リスク
重要な推論ワークロードを一握りのハイパースケール施設に集中させることは、相関性のある障害リスクを生み出す。機関投資家や政府の顧客は現在、このリスクを活発に評価に織り込みつつある。
地方自治体、病院システム、あるいは国の公益企業などがAIワークロードをどこで実行するかを評価する際には、環境災害やサイバー攻撃によって送電網(グリッド)が停止した場合にどうなるかを考慮しなければならない。欧州などの規制当局は、デジタルオペレーショナルレジリエンス要件を通じてこの懸念の法制化を開始しており、重要インフラが特定の単一プロバイダーや地理的地域に依存できる割合に、事実上の上限を設けている。
ハイパースケーラーはこうした課題に対処するよう最適化されていない。そのため、純粋な電力量よりも「電力の近接性」が勝る隙間(ギャップ)を埋める、より小規模でモジュール型のローカライズされたデータセンターにチャンスが残されているのだ。
モジュラー型データセンターの姿
データセンターにおいて、「モジュラー」という用語は広範であり、現在も定義が形成されつつある。本稿におけるモジュラー型データセンターとは、建築的にモジュール化されており(工場で事前製造された演算および電力モジュールから構築され、現場にはほぼ完成した状態で届く)、かつユースケースにおいてもモジュール化されている(多様な地域や、それぞれの地方や業界固有のニーズに適応できる)ものを指す。これらの特徴により、モジュラー型データセンターには次の4つのメリットがもたらされる。
ティア4のわずかなコストで実現するティア3の信頼性
ティア3(Tier 3)の施設は、N+1の冗長性によって99.982%の稼働率を達成できる。これは企業の推論ワークロードの大部分において十分に足りる。
段階的に拡張可能な容量
モジュラー型の施設は段階的に建設することが可能であり、ハイパースケールの建設のように最初から最終的な完成形を決めてコミットするのではなく、需要の顕在化に合わせて5メガワットまたは10メガワットずつ容量を追加していくことができる。
ワークロードに応じた資本集約度
モジュール式のティア3展開にかかる費用は、ハイパースケーラーがAIキャンパスを建設する際の典型的な範囲である1ギガワットあたり450億ドル(約7兆1800億円)から550億ドル(約8兆7800億円)(要登録)を大幅に下回る。資金調達の構造も異なることが多く、数年にわたる資本契約ではなく、より小規模なコミットメント、迅速な資金回収、そして従来型のデット(負債)およびエクイティ(自己資本)の条件が採用される。
市場のタイミングに合致した収益化までの時間
モジュラー型施設は、特に公益事業者の承認待ち行列を回避できる自家発電(ビハインド・ザ・メーター発電)と組み合わせることで、12〜18カ月で稼働させることができる。これに対し、送電網との系統連携に依存するハイパースケール施設の建設には36〜60カ月を要する。
もちろん、モジュラー型データセンターにもデメリットはある。演算資源を多くの小規模な拠点に分散させると、単一の大規模拠点で大量一括調達を行うことによって電力、冷却、ハードウェアのコストを引き下げるハイパースケールならではのユニット経済性(ユニットエコノミクス)が損なわれる。10メガワット規模の施設では、到底これに対抗することはできない。
また、地理的に分散した拠点群を運用することは運用上の負担も増幅させる。さらにモジュラー分野はなお分断されており、標準規格は一貫性を欠き、実績ある運用事業者の層も薄い。
今後の演算投資における意味合い
過去18カ月間の資金配分パターンはハイパースケーラーに集中しており、このトレンドは今後数年間にわたって下流に影響を及ぼす可能性が高い。
第一に、AIインフラを巡るストーリーは、ハイパースケール一辺倒の焦点から、モジュール化の余地を残した、よりニュアンスのある空間へと広がろうとしている。クラウドコンピューティングにおいても同様の前例があり、当初はハイパースケーラーに支配されていたものの、やがてローカライズされた新たなユースケースの余地が見出された。第二に、実際にどのプロジェクトが建設されるかを決める最大の制約要因は、引き続き電力になる可能性が高い。送電網に依存せずに電力を自ら解決できる運用者は、その優位性を時間の経過とともに累積させていくことができるだろう。
このインフラ整備の次の段階が実際にどこで起きるかを考えているステークホルダーにとって、最も有益なアプローチは、AIインフラ市場を単一のカテゴリーとして扱うのをやめることだ。フロンティアモデルの学習は数あるワークロードの1つにすぎないが、その根底にある経済性は変化しつつあり、よりローカライズされた、モジュール型のデータセンター企業の進出スペースが生まれつつある。
本稿で提供される情報は、投資、税務、または財務に関する助言を構成するものではない。個別の状況に関する助言については、資格を持つ専門家に相談すべきである。



