北米

2026.09.03 08:49

AI時代のフォーチュン100銀行がEQを最優先課題に据える理由

Adobe Stock

Adobe Stock

バンク・オブ・アメリカでは、学習の大半は従業員自身が選択する形で行われている。21万1000人の従業員が、およそ8000種類の学習リソースやコース、500のプログラム構成要素にアクセスできるカタログを利用しているが、その中で感情的知性(EI)は一貫してトップ3に入る人気コンテンツだ。

「これは、当社の組織文化を考えるうえで私が誇りに思う点です」と、バンク・オブ・アメリカのマネージング・ディレクター兼「The Academy」責任者を務めるバーナード・ハンプトン氏は語る。「自分の業務にとって最も価値があると感じるテーマを従業員自身が選ぶ仕組みの中で、EIが上位に来るということには大きな意味があります。協働、人間関係の構築と育成、人を導くといった重要スキルの価値を、人々が認識している証だからです」

The Academyは、同行の受賞歴を誇るオンボーディング、教育、スキル開発の組織である。「私たちは、労働力の機動性、つまり適切な役割に適切なスキルを、より速く身につけさせることに焦点を当てています」とハンプトン氏は説明する。多くの学習部門と異なる点のひとつは、事業部門の専門家が3〜4年間ローテーションで参加し、その後再び事業部門に戻ることだ。これにより専門知識の鮮度を保ちつつ、キャリアの流動性を高める仕組みにもなっている。

AI時代における人間ならではのスキルの需要増加は、大手企業の多くのL&D(学習・人材開発)リーダーの間でも顕著になっている。こうした、時代を超えて求められる人的スキルの需要について詳しく知るため、筆者はハンプトン氏にインタビューし、The Academyの内側を詳しく探る機会を得た。

AIはEIと切り離された独立スキルではない

「私たちはAIを独立したスキルとして捉えていません」とハンプトン氏は言う。「AIは業務の進め方全体に組み込まれています。つまり、すべてのチームがAIと共に自信を持って働けるように支援するのが、私たちの責任なのです」

The Academyはこの働き方を「ヒューマン・イン・ザ・リード(人間が主導する)」と呼ぶ。ハンプトン氏は「AIは支援し、人が決める」と表現する。このモデルでは、人間は4つの主要領域に責任を持つ。「人は意図を設定し、アウトプットを検証し、例外に対処し、判断を下します」

特に金融サービスでは、顧客の資金を扱うという重要性の高さから、人間の関与は譲れない要素だ。「信頼は極めて重要です。特に金融サービスでは、そして特に複雑な状況においては」と同氏は言う。「AIは分析の加速には優れていますが、責任と人間関係は人間主導のままでなければなりません」

The Academyの研修の実像

The Academyは社内のあらゆる役割で求められる重要スキルをマッピングしたうえで、「バンク・オブ・アメリカ・スキルライブラリ」と呼ぶ体系を構築した。感情的知性はこのライブラリの中で、2時間の講師付きコースとして位置づけられている。EIの研修はまた、オンボーディングや役割変更の際にも組み込まれており、任意ではなく必修となっている。

自己学習型のEIコースでは、参加者が感情的ニーズを検討し、自らのコミュニケーション・スタイルへの自己認識を高め、「他者に前向きな影響を与えるためにアプローチをどう調整できるか」に取り組むとハンプトン氏は説明する。

コンスタントにトップ3に入るもうひとつのコースも、EIスキルと密接に関連する。それは意見の相違が生じる瞬間に焦点を当てたものだ。「このコースは、特に意見が食い違う場面での敬意ある対話に、実践的な枠組みを提供します」とハンプトン氏は言う。意見が対立した瞬間にどう対応するかによって、相手が耳を傾けられ尊重されると感じるか、あるいは不健全な対立に陥るかが決まることが多い。この研修は、キャンパスでのオリエンテーション期間中に約2000人の夏期インターンが受講した。関連する研修には、対立解消、プレッシャー下での意思決定、協働知能などがある。

VRが4000拠点の金融センターでの没入型学習を可能に

The Academyの最も際立った資産は、バーチャルリアリティ(VR)を大きく活用したEI専門の研修コースである。

「私たちの戦略は、常に『ハイテク、ハイタッチ、ハンズオン(実践的)』でした」とハンプトン氏は語る。「VRを使えば、実生活のような状況に人々を没入させることができます」。同行は6年以上にわたり学習にVRを取り入れてきた。このコースは約4000の金融センターで実施され、年間およそ1000件の修了実績がある。

「このコースに寄せられた素晴らしいフィードバックの例をいくつかご紹介しましょう」とハンプトン氏はパソコンの画面をスクロールしながら言った。そして、バンク・オブ・アメリカに10年以上勤務しているある金融センターのアシスタントマネージャーからのコメントを読み上げ始めた。「学んだ教訓を日々応用しています。自分のEQ(心の知能指数)を意識すると、有意義な対話が促され、ポジティブな影響を残すことができます。このコースは困難な状況を乗り切るのに役立ち、同僚やクライアントとの信頼関係を築く上でのEQの価値を再確認させてくれました」と彼女は綴っていた。

LLMによる実践練習が心理的に安全な環境を生む

従来、顧客との会話に苦戦する従業員は、改善方法についてマネジャーからフィードバックを受けるのを待つしかなかった。バンク・オブ・アメリカはこの順序を反転させるAI搭載ツールを構築した。自分が苦戦していると自覚した従業員は、LLMを使って、リアルに感じられるシナリオの中で、好きなだけ非公開で練習を重ねることができる。

「上司から何か間違いを指摘されるのを待つのではなく、自分で何度も、まるで本物の現場のような状況で繰り返し練習できるのです」とハンプトン氏は言う。「これによって、リーダーが様子を見に来た際、改善点を指摘されるのではなく、正しく対応できているところを見てもらえるようになる。これが従業員にとってどれほど力強い後押しになるか考えてみてほしい」

このツールはすでに年間数十万回利用されている。

エージェントは成果に責任を持たない。責任を持つのは人だ

AIエージェントによってチームを率いることの意味がどう変わるかをハンプトン氏に尋ねると、同氏はすぐに「説明責任」の話を始めた。「エージェントは成果を所有しません」と同氏は言う。「所有するのは人です」

リーダーの仕事は、判断力に大きく依存する。たとえば、どの業務がルーティンで分析ベースであり、AIや自動化に振り分けられるかを見極める能力が必要になる。この変化が進むにつれ、「批判的思考、共感、判断、信頼といった人間的スキルはますます重要になるでしょう」とハンプトン氏は考えている。

そしてここから、AIに関して多くの組織が誤って捉えている測定の問題が浮かび上がる。「基準は単に節約できたコストではなく、創出された価値と、取り戻せた時間です」と同氏は言う。「そしてEIこそが、その創出された余力がどれだけ有効に使われるかを決めるのです」

L&Dリーダーへの3つの示唆

ハンプトン氏の取り組みの中で特に注目すべきは以下の3点である。

  • 義務化する必要がないほど優れたEI研修を提供する
  • 評価される前に、難しい会話を安心して何度でも練習できる場を用意する
  • 節約できたコストだけでなく、取り戻せた時間と、従業員がその時間で何をするかを測定する

21万1000人規模の企業において、AI時代にEIが重要になると誰かに告げられる必要はなかった。従業員自らが選んで受講したのだ。これは、EIスキルが今なお、いやこれまで以上に重要であること、そしてそれを人々が真実だと理解していることを示している。

ケビン・クルーズは感情的知性研修企業LEADxの創業者兼CEOである。ニューヨーク・タイムズのベストセラー著者でもある。彼が提供する無料のEI診断はこちらから受けられる。心理学的に検証されており、4つのコアスキルごとにスコアが示される。

forbes.com 原文

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事