感情知能(EQ)と聞いて、思い浮かべがちなのは冷静さだ。緊張感が漂う会議でも動じることがなく、必死さを微塵も感じさせずに適切な発言ができる人物だ。その基準で考えれば、実際にはリハーサルなど必要ない場面に備えて過剰に準備したり、取るに足らない細かなことを気に病んだりする人は正反対のタイプに見えるかもしれない。本人もたいていそう感じている。
この基準の問題は、スキルではなく表面的な様子だけで判断してしまう点にある。心理学者が実際に用いている、ジョン・メイヤーとピーター・サロベイが提唱した能力モデルでは感情知能とは実際には次のような能力の集合体だ。
・感情を正確に知覚する
・その感情がどのような結果につながる傾向にあるかを理解する
・自分の感情と他の人の感情を調整する
この説明のどこにも、その過程でリラックスした様子を見せなければならないという要件は含まれていない。こうした能力を最も発揮している人の中には、一見すると最も落ち着きがないように見える人もいる。そしてそうした人たちが持つ2つの習慣は改めて注目する価値がある。
習慣1:会話をする前にリハーサルする
自分にとって非常に重要な会話が控えているとしよう。その1、2日前から頭の中で会話の内容を組み立て、最初のセリフを試し、相手がそれをどう受け取るかを想像したりする。そしてそれに応じて修正を加えたりしている自分に気づく。これは神経質になっているように感じられ、こうした習慣を持つ人はこの習慣についてたいてい少し恥ずかしそうに語る。
だがそのリハーサルで実際に何をしているのかを見てみよう。そこで行われていることのほとんどは、相手の心のシミュレーションだ。つまり、自分の立場ではなく相手の立場で自分の言葉がどう聞こえるのかを考えている。心理学者はこれを視点取得と呼び、これは対立がどのように展開するかと密接に関係している。会話をリハーサルすることは、重要度が高いがゆえにまさに視点取得と同じプロセスをより高い強度で行っているということだ。
同時にもう1つのことも起きている。これは心理学者ジェームズ・グロスの「感情制御のプロセスモデル」が示す中核的な予測だ。つまり、反応が完全に形成される前の早い段階で用いる戦略は反応後に用いる戦略よりも負担が小さく、効果的ということだ。まだ冷静なうちに物事の捉え方を決めておくことは、感情的な「コスト」が低い。不意を突かれて感情が溢れかえってしまった後に会話をしながら自分をコントロールしようとするのは大変で、それほどうまくいかない。事前にリハーサルする人は、誰もが最終的にはやらなければならない仕事をより負担の少ない形で先にやっているのだ。
これが役に立たなくなるのは、リハーサルが結局何も生み出さないまま終わってしまう場合だ。会話の準備をすることと、同じことを延々考え続けることには明確な違いがあり、その違いはたいてい結果に表れる。準備する場合は自分が実際に口にしてもいいと思える言葉で終わるが、反すう思考の場合は始めたときよりも不安が増し、結局一言も発せずに終わる傾向にある。



