大統領は、過激な救世主思想にとらわれたジハード主義(Jihadism)運動に対し「封じ込める」という言葉を使った。「封じ込め」はトルーマンからレーガンまでの米政権が、共産主義との戦いのために採用した戦術で、最終的には成功している。
基本的な考え方は、米国の冷戦時の外交を指揮したジョージ・ケナンによって提示された「ロシア共産主義は絶えざる拡張によって成果を示すことができなければ、次第に衰退していく」というものだ。ケナンの分析によれば、「共産主義は人間の本質に反しているため、その破滅の種を内部に有しており、眼に見える成果がなくなれば、衰退せざるを得ない」という。彼は1947年のフォーリン・アフェア誌に匿名で次のように寄稿した。
「救世主主義的な運動は、結局のところ現実社会に適応できないというフラストレーションに直面する」
ケナンは「ソ連指導者は間違った哲学に傾倒して理性を失い、簡単に武力に訴えてしまう」と主張する。それゆえ、対処法として西側諸国は「外交的、経済的、軍事的にソ連が前進と考えるものを押し戻すべきだ」と主張した。「封じ込め」てしまえば、共産主義の内部矛盾がソ連を弱体化し、最後にはその帝国の崩壊つながるというのだ。
冷戦期、共和党支持者らはこの戦略を弱腰だと批判した。彼らは東欧やそのほかの場所で共産主義に奪われた失地の「巻き返し」を主張した。しかし、ソ連が核兵器と強力な通常戦力を得ると、「封じ込め」以上に攻撃的な対抗措置は危険とみなされた。このため、冷戦時代の各政権は最終的には、一種のケナン戦略に戻っていった。これにより、ソ連のシステムは内部から腐敗していき、レーガン政権が終わる頃には完全に崩壊したのだ。
ISISはソ連と違い核兵器や広大な領土を保有せず、ロシア人のような資質もない。だが、ISISに対しても「封じ込め」戦略は有効となりそうだ。なぜならば、救世主思想の運動は絶え間ない勝利を得ることよってしか存続できないからだ。貧困にあえぐスンニ派のシリアとイラクの支配地域を超えて拡大することができなければ、正当性を維持することは困難になる。カナダのジャーナリスト、グリーム・ウッドは3月、ジ・アトランティック誌に掲載した論文「ISISが本当に欲すること」で、次のように書いた。
“「封じ込め」を行えばISISは機能不全に陥る。たとえ支配地域が広がっても、ほとんどは人口密度が低く、貧しい地域だ。拡張が止まり縮小に向かえば、指導者らの「神の意志の推進機関、黙示的終末の使者」という主張は根拠を失い信奉者は減るだろう。”
これは70年前のケナンと驚くほど似た考え方だ。ISISを指導する原理主義者たちが、カリフ制国家の樹立を主張するならば領土の拡大が必要だ。それゆえ、外部への拡張を「封じ込め」、支配地域を少しでも奪還することが、重要な意味を持つ。共産主義と同様、過激な聖戦主義は自己破壊の種を内部に宿しているからだ。