業界全体の ITリテラシーの底上げへ
自らのお寺で劇的なDXを実現してきた小路氏だが、その視線はすでに「お寺業界全体」の未来へと向けられている。
他の僧侶から「うちも困っている」「どうしたらいいのか」と相談を受けることが増えた小路氏は、約10年前から啓蒙活動をスタート。現在ではDX4TEMPLESを立ち上げ、全国の僧侶に向けてITコンサルティングやセミナーを行っている。
小路氏が見据える今後の展望は、業界全体の仕組みそのもののアップデートだ。 「自分の寺をいくら便利にしても、会議に行けば『紙で出力してくれないと困る』という人がいると、そこで効率化が止まってしまいます。メールやLINE、Slackなどのチャットツールをもっと普及させていきたい。また、未だに残っている『ハンコ文化』の改善も急務です。住職が交代する際など、何部も印刷して地域の係長から市の担当者、県の担当者、さらには京都のトップまでハンコリレーをしなければならず、大変なストレスと事務負担になっています。そうしたアナログな稟議システムを変えていく必要があります」
何より小路氏が危惧しているのは、データ管理の「属人化」だ。 「住職の頭の中にしか『誰がどの檀家様か』という情報が入っていないお寺が非常に多いです。顧客名簿すら存在しないところもあります。将来、人手不足によって1人の僧侶が複数のお寺を管理しなければならなくなった時、データとして残っていなければ引き継ぐことすらできません。未来のお寺を守るためには、各寺院がしっかりとデータ管理を行っていくことが不可欠です」
テクノロジーの力で雑務やバックオフィス業務を円滑にすることで、生み出された時間は何に還元されるのか。
「余裕がないと、新しいことをするモチベーションは生まれません。事務作業に忙殺されなくなったことで、檀家さんや家族とのコミュニケーションに時間を使えるようになりました。そして、AIを使ってお寺に関するアプリを開発するなど、新しいことにチャレンジする余裕も生まれました」
長年培われてきた伝統を守りながら、テクノロジーを柔軟に受け入れていく。次世代の僧侶である小路氏の挑戦は、お寺という日本古来のコミュニティが、これからの時代を生き抜くためのひとつの解を示している。


