近年、日本の地域社会を支えてきた「お寺」が大きな転換期を迎えている。地方の過疎化や人口減少による檀家の減少に加え、住職の高齢化、さらには後継者不足が深刻化した。全国に存在する寺院のうち、少なくない数が将来的な存続の危機に立たされていると言われている。
この問題は、単なる人口動態の変化だけが原因ではない。日本の多くのお寺は、住職やその家族だけで運営されている「一人社長」のようなスモールビジネスの側面を持つ。24時間365日、いつ発生するかわからない葬儀や法要に対応しつつ、施設の維持管理から経理、広報に至るまでを少人数で回さなければならない。結果として慢性的なリソース不足に陥り、新たな取り組みや情報発信に手を回す余裕が失われているのが実情だ。
この社会課題に対して、最新のテクノロジーとAIを駆使して一石を投じる僧侶がいる。長野県・浄土宗善立寺の副住職であり、宗教法人専門のIT・DXコンサルティング会社、DX4TEMPLESの代表も務める小路竜嗣氏だ。リコーでエンジニアとして活躍した後に僧侶へと転身した経歴を持ち、現在AIエージェント「Manus(マナス)」の公式フェローでもある小路氏は、どのようにお寺のアナログな業務フローを変革し、次世代の寺院経営のあり方を模索しているのか。
「本来の仕事は全体のわずか10%」お寺の現状
小路氏がエンジニアから僧侶へと転身し、お寺の世界に入ってまず直面したのは、過酷な労働実態と、想像を絶するようなアナログな業務環境だった。
「日本のお寺ってほとんどが家族で運営しているんですよね。父親が住職で息子が副住職だったり、あるいは息子がいなくてひとりでやっていたりする。となると、明確な休みがないし、24時間365日の対応をひとりもしくはふたりでやっているんです。企業だったら完全にブラック企業だなと思うような働き方をずっと続けなければならないというのが、まず大変でした」と小路氏は振り返る。
僧侶といえば、お経を読み、法話を通じて仏教の教えを広めるのが主な役割だと思われがちだ。小路氏自身もそうした熱意を持って仏門に入ったひとりだった。しかし、実際の業務においてそうした本来の役割が占める割合は「ほんの10%程度」に過ぎなかったという。
「残りは何かというと、ひたすら書類を作成したり、境内の電球を交換したり、整備をしたりする業務です。お寺にはいわゆる支部や県ごとの集まりがあるのですが、そうした会議の書類を作って提出するといった事務作業が非常に多かった。私が寺に入った十数年前はまだまだFAXが現役で、大量の資料を印刷して、会議は全部紙でやらなければならなかった。出欠確認もハガキを送って回収するなど、とにかく雑多な業務に追われていました」



