深海保全連合の共同設立者であるマシュー・ジャニは「深海底採掘をめざす企業とその政府スポンサーは、これまでもこうした事業を開始しようとしてきましたが、資金面や物流面の課題、環境問題、人々の間に広くある懸念のために、その試みはことごとく頓挫してきました」と声明で述べている。同団体は深海底採掘の停止を求めている。
今回の動きの中心にあるTMCも、ジャニが説明しているような事例にならないとは十分に示せていない。TMCはまだ黒字化しておらず、デンマークの海運大手APモラー・マースクは同社への出資を引き揚げている。また、米防衛大手ロッキード・マーティンも、ISAの枠組みでクラリオン・クリッパートン断裂帯の探査ライセンスを持つ英国企業の持ち分を売却している(編集注:ただ、ロッキード・マーティンはこの区域に関して、DSHMRAに基づく探査ライセンス2件を自社でなお保有しており、採掘に向けた事業計画を再開したとも報じられている)。
一方で、こうした懐疑的な見方は的外れの可能性もある。トランプの大統領令は許認可手続きを迅速化しただけではない。海底から採取した鉱物について、備蓄やオフテイク契約(あらかじめ買い取る契約)の可能性の調査も各政府機関に命じた。さらに、トランプ政権はこれとは別に、国防生産法に基づいて「採取可能な重要鉱物」に対して輸出規制を課す権限を商務長官に与えたほか、コバルトなどの重要鉱物について、中国への依存度を下げる目的で10億ドル(約1600億円)相当の備蓄を国防総省に指示している。
つまり、深海底鉱物の最初の本格的な顧客は、米国や日本の自動車メーカーなどではないかもしれない。米国政府が、石油の備蓄と同じように、それらを戦略物資として買い入れる可能性がある。実際、TMCのジェラルド・バロン最高経営責任者(CEO)も8月、「米国の重要海底鉱物の安全なサプライチェーン確保は、政策目標から具体的な実行へと移りつつあります」と述べている。
今回の動きは、一企業が採掘許可を取得できるかどうかという話ではない。米国は深海底の資源に対する一方的な権利主張を、国際的な協力を取りつけずに、商業的、外交的、法的に成り立たせることができるのかどうかという問題だ。中国、フランス、ISAはいずれも、それはできないとする立場を表明している。米国政府は、それはできると踏んでいる。いずれにせよ、深海底の資源を誰が所有するかという問題は、広く知られていようがいまいが、もはや理論上の問題ではなく現実の問題になっている。


