アンソロピック(Anthropic)は株式を公開しないまま、1250億ドル(約19兆8750億円)を超える資金を集めてきた。事業を回すのに必要な費用は自社の売上高でまかない、すでに上場している大半の企業を上回る手元資金を抱えている。それでも、およそ3週間後には株式を公開する。
米ネットメディアのジ・インフォメーションによると、アンソロピックは米国の祝日レイバーデー(2026年は9月7日)が過ぎてから目論見書を公開する。9月中旬に投資家向けの説明会を開き、9月下旬から10月上旬に上場する計画だという。
3週間前の記事で2兆ドル(約318兆円)という想定時価総額を取り上げたときには、どの報道も上場は10月だとみていた。その日程が前倒しされた。米国の制度では、経営陣が機関投資家を訪ねて回る売り込み(ロードショー)を始める15日以上前に、目論見書を公開しておかなければならない。逆算すると、レイバーデーが事実上の締め切りになる。
アンソロピックの売上高は年10兆円規模、1週間で12兆円分の計算資源を確保
前回この話題を扱ってからの3週間は、異例なほど動きが多かった。
ブルームバーグの報道によれば、直近の実績を1年分に引き伸ばした年換算の売上高は650億ドルを超えた(約10兆3350億円)。アンソロピックの成長に懐疑的だった報道の多くは、それ以前の470億ドル(約7兆4730億円)というペースを前提にしていた。第2四半期の売上高は115億ドル(約1兆8285億円)を上回り、前年同期の7億8700万ドル(約1251億円)から跳ね上がっている。同社が投資家に示した資料は、一部の費用を除いて計算する調整後営業利益が黒字だったことも明かした。最先端のAI開発企業が投資家に黒字を提示したのは、これが初めてだ。
ただし、これらの数字は速報値であり、監査を受けていない。「調整後」という言葉でどの費用が差し引かれているのかは、社外の誰にもまだ確かめようがない。
次に来たのが計算資源である。アンソロピックは8月26日、英クラウド事業者エヌスケールに450億ドルを支払う契約を結んだ(約7兆1550億円)。8月31日には、米クラウド事業者ラムダに350億ドルを支払う契約を結んでいる(約5兆5650億円)。1週間で約800億ドル(約12兆7200億円)分の計算資源を押さえた計算になる。ラムダから借りる処理能力は、テキサス州ヌエセス郡でデータセンター開発会社ハット8が建設中の施設に置かれる。
上場書類の公開を2週間後に控えた時期に、これだけの処理能力を契約した。この動きが物語るのは、支出の大きさではなく需要の大きさである。アンソロピックは、外部の企業や開発者が自社製品にClaudeを組み込むためのAPI接続を、報じられている80%超の粗利益率で売っている。しかも、その申し込みの列を何度もさばききれずにきた。そうした立場にある企業にとって、稼働時期まで決まった契約済みのメガワット(データセンターの規模を示す電力容量)は、装いを変えただけの売上高予測にほかならない。
一部の既存株主には売却を認め、他の株主は売却禁止期間の延長を検討
ジ・インフォメーションの報道には、上場後に株式そのものがどう動くかを左右する取り決めが2つ含まれている。
アンソロピックは、一部の既存株主が今回の売り出しに自分の持ち株を直接出せるようにする案を検討している。これとは別に、上場から180日とするのが通例の売却禁止期間(ロックアップ)を、一部の保有者に限って延ばす案も探っている。
2つの案は矛盾して見えるが、矛盾していない。組み合わせると、結果は1つに定まる。特定の初期株主だけが、帳簿の上でしか価値を持たなかった持ち株を、上場時の売り出し価格で現金に換える。放っておけば売却禁止期間が明ける2027年春に市場へ出てくるはずの株式は、動かないまま残る。
設備や事業を築くために資金を集める会社なら、新たに発行して売る株式の数をできるだけ増やす。株主に現金化の機会を作り出す会社は、誰にいつ売らせるかを決める。



