40歳を超えても、世界のトップで活躍を続けるアスリートたち。その驚異的なパフォーマンスを支えているのは、才能や努力だけなのだろうか。身体を測る技術やAIが身近になりつつあるいま、エリートスポーツの最前線から、健康を支えるテクノロジーと、それだけでは解決できない問題を考える。
2026年夏、北米ワールドカップ。大会期間中に39歳になったリオネル・メッシが8得点を挙げた。41歳のクリスチアーノ・ロナウドは、男子ワールドカップ史上初めて6大会すべてでの得点を記録した——41歳138日での一試合複数得点は、大会史上の最年長記録でもある。
この二つの偉業は、才能だけでは説明し切れない。もちろん、二人とも20代の頃から世界最高の才能だった。40歳前後の二人が、真夏の北米で、長期化した大会に出場し、得点を残したこと——問いを立てるべきは、才能そのものではなく、才能を支える条件の側である。
その条件を変えてきたのが、身体を測り、回復を設計し、加齢に合わせて役割を組み替える技術である。データサイエンスの本当の力は、身体を数字に変えることではない。変化を早く捉え、無理を続けない判断へつなぐことにある。
だが、測れることと、休めることは同じではない。
身体を測る技術は民主化される。しかし、休む権利は民主化されるのか。
スポーツの最先端から日常へ持ち帰るべき問いは、ここにある。
意志だけではなく、環境を問う
比べるべき相手は、他の誰かではない。同じ人物の、十数年前である。
ここで一度だけ線を引いておく。以下の経歴は報道と本人の回顧に基づく。何が競技寿命を延ばしたのかという正確な因果を、個別の人生から証明することはできない。それでも、複数の長い競技人生に共通して現れる条件を見ることはできる。
20代半ばのメッシは、筋損傷を短い期間に反復していた。試合中の嘔吐も繰り返し報じられていた。2014年以降、彼は栄養面の助言を受け、食習慣を大きく見直す。
助言の中心に置かれたのは、水、エクストラバージンオリーブオイル、全粒穀物、新鮮な果物と野菜という、驚くほど古典的な食事だった。ピザやファストフード、炭酸飲料、チョコレートやアルファホーレスに代表される精製糖を減らした。本人は、食事を整えた後、試合中に嘔吐することがなくなったと回顧している。少なくとも、嘔吐と筋損傷を反復していた二十代半ばとは、身体の状態が変わった。
また本人は、子どもが生まれてから家族中心の生活を重視し、サッカーを人生のすべてとして抱え込まなくなったと語っている。食事だけでも、家族だけでもない。行動を一つ変えたというより、回復が続く生活へ組み替えていったと見るほうが自然である。
ロナウドは、食事と日々のルーティンを厳格に管理し、睡眠コーチとも環境や回復方法を検討してきた。ルカ・モドリッチは、チーム練習とは別に、毎日の身体状態に応じた補完プログラムを長年続けている。加齢とともに出場時間が変わっても、試合の重要な局面で担う役割を変えながら適応してきた。
だが、三人を支えたものを「自己管理能力」の一語で片づけてはならない。
個人に合わせて計画を設計する人がいること。練習量を減らす判断が、ただちに評価の低下として跳ね返らないこと。移動と生活が、回復を前提に組まれていること。疲労の訴えが、甘えではなく情報として扱われること。同じ勤勉さを持つ日本の40歳に、このうちのいくつが用意されているだろうか。



