商品を売るのではなく「状況」を売る
高鍬氏が営業を説明する際、たびたび使うのが「ペンを売る」という例だ。
目の前のペンが、いくら高品質でも、必要のない人には売れない。
しかし、今すぐ契約書に署名すれば100万円を受け取れるのに、手元にペンがない人であれば、そのペンには高い価値が生まれる。
商品の価値は、商品だけで決まらない。顧客が置かれている状況、課題、必要性によって変わる。
だからCCHの営業担当者は、商品説明に多くの時間を使わない。商材の説明は5分から10分で終える。
その代わり、顧客の背景を聞く。
何を実現したいのか。
今、何に困っているのか。
なぜ解決できていないのか。
何を変えたいのか。
顧客の課題を理解し、それに適した解決策として商品を提示する。
顧客が何を求めているかを理解せず、最初から一つの商品だけを売ろうとする営業を、CCHでは「一本刺し営業」と呼ぶ。
刺さるかどうかが偶然に左右される、再現性のない営業だからだ。
「物を売るのではなく、相手の課題と状況を理解する。そこに合う商品を出せば、価値が生まれます」
この営業思想は、M&Aにも共通している。
会社を買い、CCHのやり方を一方的に導入するのではない。
その企業が何を持ち、どこに困り、何を目指しているのかを理解する。
そのうえで、最適な経営資源を投入する。
CCHの営業とM&Aは、顧客か企業かという対象が異なるだけで、根本は同じだ。
DAZNとの取り組みで見せた「売れる形をつくる力」
CCHの営業は、依頼された商品をそのまま販売するだけではない。
売れないと判断すれば、商品設計や料金、販売条件にまで踏み込む。
DAZNの法人契約を飲食店へ販売する取り組みも、その一例だ。
当初の課題は、個人契約より法人契約の方が高く、飲食店が導入するメリットを伝えにくいことだった。
そこでCCHは、法人契約をした店舗に、DAZNの会員を獲得する代理店のような権利を付ける案を提案した。
店舗が来店客にDAZNを紹介し、その顧客が契約を継続している間、店舗にも収益が還元される。
単なるコストだった法人契約を、店舗の新たな収益機会へ変えた。
CCHは、まず営業担当者3人でテスト販売を行い、約1週間で20店舗ほどを獲得した。
売れる可能性を数字で確認したうえで、DAZN側と条件を再交渉し、本格展開へ進んだ。
ここで重要なのは、会議室で市場調査を続けなかったことだ。
まず売ってみる。結果を見る。継続するか、撤退するかを判断する。
売れると分かれば、より大きく展開できる条件を交渉する。
高鍬氏は、この速度を経営で重視している。


