キルフェボンで気づいた「強い会社」の条件
高鍬氏がキルフェボンに関わった際、最も驚いたのは、商品の知名度だけではなかった。
そこで働く人たちに、「なぜキルフェボンを選んだのですか」と聞くと、多くの社員がこう答えたという。
「キルフェボンが好きだからです」
キルフェボンは、必ずしも同業他社より給与や時給が圧倒的に高い会社ではない。
それでも、ブランドのファンが働き手として集まってくる。
高鍬氏は、その状態を見て「この会社はトヨタのようだ」と感じた。業界や職種ではなく、その会社の商品やブランドそのものに引かれて人が集まるからだ。
人手不足が進んでも、強いブランドには良い人材が集まり続ける。
顧客だけでなく、従業員からも選ばれている。
それは、財務諸表には表れにくいが、長期的な企業価値を左右する重要な資産である。
一方で、高鍬氏は、キルフェボンとCCHを比較したときに危機感を持った。
CCHの社員に入社理由を聞くと、「人が好き」「カルチャーが好き」という答えが多かった。
それ自体は良いことである。しかし、高鍬氏は、それだけでは十分ではないと考えた。
「本来は、CCHの商品やサービスが好きだから入社した、と言ってもらえる会社にしなければいけない」
営業力を武器に他社の商品を販売してきたCCHが、自ら社会に必要とされるサービスを持つ。
そのためには、ゼロから事業を生み出すだけでなく、すでに価値ある商品やサービスを持つ会社とM&Aによって組む必要がある。
キルフェボンは、CCHが売上高1000億円を目指す理由にも影響を与えた企業だった。
ホリイフードサービスは「宝のような組織」だった
ホリイフードサービスを検討した際、高鍬氏が最も高く評価したのは、上場企業という看板でも、保有店舗の数でもなかった。
現場の社員と幹部だった。
当時の現場には、経営に対する不満や、意見を出しても会社が変わらないという諦めがあった。
しかし、社員たちの会社への愛着や、店舗を良くしたいという思いは失われていなかった。
部下の待遇を良くしたい。
店舗の売上を伸ばしたい。
会社を以前より良い状態にしたい。
幹部たちは、課題を理解し、改善案も持っていた。ただ、それを実行する経営環境が整っていなかった。
高鍬氏は、その姿を見て「宝のような組織だ」と感じたという。
「彼らがなぜ売上を上げられると考えているのかを聞くと、きちんと根拠がありました。正しく実行すれば伸びると判断しました」
M&Aで危険なのは、特定の個人だけに売上や顧客が依存している会社だ。
創業者の人脈だけで契約を獲得している。
一人のトップ営業が売上の大部分をつくっている。
その人物が抜ければ、会社の価値が一気に失われる。
契約によって数年間引き留めたとしても、本人に会社への愛着や、事業を成長させたい理由がなければ、長期的な再現性はない。
一方、ホリイフードサービスには、会社への思いと現場の知見を持つ人材が残っていた。
経営側が正しい方向を示し、意思決定の速度を上げれば、組織はもう一度成長できる。
CCHが買ったのは、店舗や売上だけではない。
変わる機会を待っていた組織そのものだった。


