それは画期的な新作ジャケットの発表であると同時に、その背景にあるエコシステム、さらにはその根底にあるブランドの姿勢を示すプレゼンテーションでもあった。
そこに解決すべき問題があるか──。
カナダ発のアウトドアブランド「アークテリクス」のものづくりは、1989年の創業時から常にその問いを起点としてきた。始まりは、平面のパターンでつくられていたハーネスを、人間の体にあわせて3D構造にしたこと。以降、その技術を用いて荷物の揺れを抑えたバックパック、GORE-TEXファブリックや止水ジッパーを採用したハードシェルジャケットなど、厳しい山の環境でより良いパフォーマンスを発揮するものを追求してきた。
そうして開発、改良されるものは、自然とミニマルで洗練されたデザインとなり、耐久性も高く、「長く使える」ものになる。サステナビリティが声高に叫ばれるずっと前から、それがブランドのDNAとして根付いていた。
2021年にスタートした「ReBIRD」プログラムでは、製品のケアや修理を提供し、さらに破損のデータを開発に生かすことで、製品の寿命をより長くすることに注力。それは環境負荷の軽減にもつながった。
それでも、最後は廃棄されてしまう。その一方通行を変えることができないか。それが、この数年、同社が向き合ってきた大きな問題だった。
リニアからサーキュラーへ
2026年夏、その解決策が発表された。寿命後の製品の再生までを組み込んだ新たなプラットフォーム「System 0」の誕生だ。漁網などの使用済みナイロン素材をリサイクルするイタリアのAquafil社と提携し、同社が提供する再生ナイロンをベースに新素材を開発。これまで通り、パフォーマンスにおいて妥協しない姿勢で「スペーロ SV ジャケット」を完成させた。
開発にあたっては発想の転換が不可欠だった。「アスリートのインサイトを起点に積み上げるのではなく、製品の廃棄・回収から逆算してデザインする。これは私たちが長年培ってきた慣行に挑むことを意味していました」と、最高クリエイティブ責任者のケイティ・ベーカーは振り返る。
その設計思想を象徴するのが、「修理しやすいプロダクト」ということだ。
「製品が現実の世界でどう使われているのか、どこが最も壊れやすいのか。ReBIRDを通じて得られた知見は、このプロジェクトにとって最も価値のあるインプットのひとになりました。あらかじめ弱点を取り除き、現実の使用環境を想定してデザインすることができたのです」と語るのは、先進コンセプトチームを率いるアレックス・プランテ。最初の製品としてハードシェルジャケットを選んだのは、それがブランドのアイコンであるからだけでなく、「技術的に最も複雑な製品だから」という。



