イヌは飼い主の気持ちに寄り添うと言われている。お利口さんな子に限られるのだろうが、飼い主が悲しんでいるときなど、近くに来て、「どうしたの?」と心配するように顔を覗き込んだりする。どうしてそれがわかるのか。麻布大学などによる研究チームは、飼い主とイヌを使った実験で、その謎の一端を解明した。
麻布大学を中心とした、東北大学、奈良先端科学技術大学院大学、沖縄科学技術大学院大学、北海道大学、医療機器メーカーのクアドリティクスによる研究グループは、イヌが飼い主の感情や生理的変化をどのように感じているのかを実験によって検証した。怒りや喜びなど、見た目にもわかりやすい感情をイヌが識別することは以前から知られていたが、ここで考察したのは、明瞭に表出されない飼い主の状態をイヌが感じ取る仕組みだ。
実験は、飼い主とイヌのペア35組の参加で行われた。ペアは2組に分けて、それぞれリラックスした状態、または10分間の暗算や文章の記憶などの課題を通じてストレスを感じる状態になってもらった。またストレスを与えられた人たちには、ストレスの自覚度を答えてもらった。さらに、飼い主の匂い(脇の下の汗と唾液)を採取し、簡単な文章を読む様子を動画に撮影。その後、イヌにその映像を見せ、匂いを嗅がせて行動の変化を観察した。イヌと飼い主は、それぞれ心拍計を装着している。
その結果、意外なことに飼い主がストレスを感じているときにはイヌはあまり関心を示さず、むしろリラックス状態の飼い主に注意を向けた。もっとも強く反応したのは、飼い主が生理的にはストレス状態にあるものの主観的にはそれを感じていないときだった。また生理的ストレス状態の飼い主とイヌとの間には、心拍数の変化が同期する傾向が見られ、生理レベルでの相互作用が示唆された。
これらのことから、イヌは自分が感じた飼い主の生理的な状態と実際の様子の不一致を敏感に察知して、「何か変だ」と察するのだと推測できる。そして、もっと多くの情報を求めようと行動する、つまり「どうしたの?」と飼い主に近寄ってくるのではないかと考えられるというわけだ。
イヌは、悲しそう、怒ってる、といった飼い主の感情表現に単純に反応しているのではなく、いろいろな要素を総合的に判断しているということだ。だから、お風呂に入れようと考えただけで、そのときの表情、態度、匂いなどからイヌは「あ、なんか企んでやがる!」と察して逃げ回るのではないか。まあ、これは飼い主の勝手な想像だが。
今後は、脳活動、視線、心拍変動、ホルモンなどの指標を増やして、イヌがどのように飼い主の状態を認識するのかを明らかにしていくと、研究グループは話している。
出典:麻布大学 プレスリリース:イヌが飼い主の「微妙な感情や生理的変化」を 読み取る可能性を示唆
論文:Dogs display context-dependent behavioral responses to subtle owner-derived multimodal stimuli



