ヘルスケア

2026.08.31 13:30

がん発症の確率は遺伝子で「決まらない」、ゲノム相互作用の衝撃 研究

stock.adobe.com

遺伝子検査にとって何を意味するのか

今回の研究で得られた知見は、医療機関ががんのリスクをどう予測するかという問題に直結する。検査報告書に、がん関連遺伝子の「病的バリアント」(pathogenic variant。病気の原因になりうると判定された遺伝子の変化)がある、と書かれていたとする。それでも、その結果は、複雑ながん発症メカニズム全体のうちのほんの一部を示しているにすぎない。バリアントそのものは重要だ。しかし、重要なのはそれだけではない。本人のゲノムの残りの部分も、そして家族が受け継いできた遺伝的な背景も、同じように結果を左右する。

advertisement

そのことは、臨床の現場で得られている数字からもすでにうかがえる。BRCA1またはBRCA2に有害な変化を受け継いだ女性は、60%以上が生涯のうちに乳がんを発症する。一般の女性では約13%である。裏を返せば、受け継いでも生涯発症しない人がかなりの割合を占めるということだ。同じBRCA1のバリアントを持つ2人でも、受け継いだゲノムの残りの部分によって、生涯リスクは異なりうる。

多数の遺伝子を一度に重みづけするポリジェニックリスクスコア(polygenic risk score。多くの遺伝子の影響を合算して発症リスクを見積もる手法)は、すでにそうした推定の精度を高めている。今回の研究は、そうしたスコアが成り立つ生物学的な仕組みを示すものだ。同じドライバー変異でも、異なる遺伝的背景に導入すると、細胞が分裂を続けるのか、分化するのか、炎症を起こすのか、死ぬのかを決める回路は、それぞれ違う反応を示した。変異は同じだった。しかし、結果は同じではなかった。

がんを引き起こす変異と、受け継いだ遺伝子は、それぞれの効果が単純に足し合わされるわけではない。互いに影響し合うのである。バリアントを持っているからといって、発症するとは限らない。その確率は、ゲノムの残りの部分に左右される。同じ検査で同じ結果が出た二人が、同じリスクを抱えているとは限らないのだ。

advertisement

個人ごとのがんリスクへ

マウスで得られたこうした知見は、ヒトで観察されていることと重なる。がんになりやすくする遺伝子を受け継いだ人が、全員がんになるわけではない。そして、実際にがんになった人でも、マウスと同じように、発症の時期とがんの種類は、ほかの多くの遺伝的要因、さらにはおそらく環境要因によって強く左右される。

今回の研究は、遺伝子がどのように効果を発揮するのかという、はるかに大きな物語の一部である。周囲の遺伝的背景がどうであれ同じように現れる、という意味で完全に優性な遺伝子は、ごくわずかしかない。はるかに多いのは、確実な運命ではなく「なりやすさ」を受け継ぐという形だ。その「なりやすさ」が意味するリスクは、わずか数%のこともあれば、50%や60%を超えることもある。こうした遺伝子どうしの相互作用を理解することは、「がん遺伝子」を受け継ぐことがなぜ定まった運命ではないのかを説明する助けになる。受け継いだ遺伝子は将来のがん発症を絶対的に決定づけるものではなく、はるかに複雑な全体像を構成する重要な一要素にすぎない。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事