ヘルスケア

2026.08.31 13:30

がん発症の確率は遺伝子で「決まらない」、ゲノム相互作用の衝撃 研究

stock.adobe.com

stock.adobe.com

がんのなかには遺伝するものがあることを、誰もが知っている。だが、それは実際には何を意味するのだろうか。がんになりやすくする遺伝子を受け継いだら、必ず発病するのだろうか。

幸いにも、その答えは「ノー」である。ある遺伝子が病気を、とりわけがんを引き起こすかどうかは、ほかに受け継いだ多くの形質に左右される。マウスを使った最近の研究によれば、がんを引き起こす遺伝子を受け継いだ結果がどうなるかは、それ以外の遺伝的要因に大きく左右される。こうしたほかの形質が、そもそもがんになるのかどうか、なるとすればどんな種類のがんか、そして発症するとして人生のどの時点で現れるのかを決める一因となる。この現象はエピスタシス(epistasis。遺伝子間相互作用)と呼ばれる。一つの遺伝子の効果は、ほかの遺伝子によって書き換えられうるのだ。

がんの進化を何度も再現する

ヒトを対象にしたがん研究は、比較が難しい。一人ひとりが固有の存在で、ゲノムも食事も環境も、過去の環境暴露(化学物質や生活習慣など)の履歴も一人ひとり異なるためだ。今回の研究は、そうしたノイズを取り除いた。4つのマウス群を使い、がんが生まれる最初の段階を数百回にわたって繰り返したのである。4群のあいだの遺伝的な隔たりは、ヒトの集団全体で見られる幅に匹敵し、1群についてはそれを上回る。

どの個体も、生後15日で同じ肝発がん物質を1回だけ投与され、同じ条件下で飼育された。そのうえで研究チームは、581個の肝腫瘍について、DNAの全塩基配列と遺伝子の働き方を解析した。結果を決めているのが発がん物質への曝露と偶然だけであれば、遺伝的背景の異なる4群からは、どれも似たような腫瘍が生じるはずである。偶然は、どの群にも同じように働くからだ。ところが、そうはならなかった。

腫瘍が現れたのは、最もがんになりやすい群では投与から25週後、最もがんになりにくい群では78週後だった。発がん物質を投与しなかった個体でも、自然に生じる肝腫瘍のできやすさは同じ順序になった。最もなりやすい群の全個体に腫瘍ができた時点でも、最もなりにくい群では腫瘍がまったくできていない個体が多かった。

同じ経路、違う結果

腫瘍の95%、つまりほぼすべてが、たった一つのシグナル伝達系であるMAPK経路(MAPK pathway)に、その働きを強める変異、すなわち活性化変異が確認された。この経路は、肝細胞に対して、いつ増殖し、いつ分化して役割の定まった細胞になるかを指令する。変異が起きた場所の周辺のDNAは、どの群でも同一だった。前後それぞれ少なくとも13文字分にわたって一致している。したがって、群ごとに結果が分かれたことを、近くの塩基配列の違いで説明することはできない。

腫瘍ができ始めるのに必要な変化の数も、遺伝的背景によって変わった。最もなりやすい群では、ドライバー変異(driver mutation。細胞のがん化を実際に推し進める変異)が一つあれば足りるのが普通だったのに対し、ほかの群では少なくとも二つ必要だった。最もなりにくい群では、腫瘍の3分の1以上が、DNAが傷ついたあとの最初の細胞分裂でゲノム全体を丸ごと倍加させていた。同じ曝露、同じ標的臓器、同じ経路。それでも、生じるがんの種類も時期も違った。がんがまったくできないこともあった。

次ページ > 遺伝子検査にとって何を意味するのか

翻訳=酒匂寛

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事