人件費を削減するために従業員を解雇している企業は、2つの事実に直面している。それは、期待を寄せて導入したAIが、置き換えたはずの人材よりもコストがかかること、そして、一度手放した労働力を再構築するには、削減したコスト以上の費用がかかるということだ。
8月1日に発表された7月の雇用統計は、誰もが望まない数字を突きつけた。エコノミストが予測していた8万3000人の増加とは裏腹に、雇用者数は2万3000人の減少へと突如暗転したのだ。労働参加率は5年超ぶりの低水準となる61.4%に低下。過去2カ月分の数値も合わせて10万3000人下方修正された。企業は現在、このような厳しい労働市場を乗り切る必要に迫られているが、その大半は、エンゲージメントの低い従業員を抱えたまま舵取りを行っている。
一方で、雇用主の55%はAI主導の解雇を後悔していると回答しており、Forrester Researchは、こうした削減の半数が2027年までにひそかに取り消されると予測している。多くの場合、それはより高いコストで、しばしばオフショアで行われる。そしていま、AIインフラそのものの運用コストが、置き換えた人間の労働よりも高くなっている。
この判断を誤った企業には、共通する前提があった。雇用関係を、管理すべき関係性ではなく、最適化すべきコストだと捉えていたことだ。こうした削減によって雇用主が実際に解体していたのは、人員数ではなかった。関係性だったのである。
コロナ禍以降、雇用は単なる取引ではないという考え方をいち早く提唱したのが私だった。当時の背景には「大退職時代(Great Resignation)」があった。企業は契約金や卓球台といった特典を用意して引き留めようとしたが、労働者側は単に「この会社に留まる価値はない」と判断していた。問題だったのは特典ではなく、関係性だったのだ。
その後数年で、他の調査機関もこの考え方を追うようになり、同様の結論に至った。GartnerからDeloitteに至るまで、議論は「雇用は関係性なのか」から「ほとんどの組織がそれをいかにまずく管理しているか」へと移った。
雇用は決して取引ではなかった
産業革命以来、私たちは雇用を契約として語ってきた。そこでは、労働と報酬が交換され、都合が悪くなればどちらの当事者からでも解約できると考えられていた。このような取引的な思考は、替えの利く役割が中心の世界では意味をなしたかもしれない。しかし、社会が進化を遂げた現在、複雑で人間味に溢れ、多様性に富んだ雇用の実態に対して、そうした考え方はもはやまったく合わなくなっている。
雇用は関係性であり、あらゆる関係性と同様、複数の次元で同時に機能する。雇用主と従業員を対象にした長年の調査を通じて、一貫して4つの次元が浮かび上がっている。信頼に根差した組織との関係、尊重に根差したリーダーとの関係、共有価値に根差した同僚との関係、そして配慮に根差した仕事そのものとの関係である。従業員は日々、それぞれの次元がどれほど強いかを暗黙のうちに評価しており、その評価こそが、コミットメント、裁量的努力、そしてとどまるか去るかの判断を左右する。
単一のエンゲージメントスコアでは捉えきれないほど、この問題を複雑にしている要素が2つある。第一に、これらの次元はすべての人にとって同じ重みを持つわけではない。外科医は仕事そのものを何より重視するかもしれない。家族で初めて専門職に就いた人は、組織を最も重く見るかもしれない。チームリードは、同僚との関係に大きく左右されるかもしれない。福利厚生予算は、診断していない問題には対処できない。
第二に、関係性は時間とともに変化する。入社1年目に人を引き留めるものが、7年目にも同じであることはほとんどない。雇用関係を静的なものとして扱うのは、長期的な関係を固定的なものとして扱うのと同じくらい見当違いである。
これを裏付ける数値は極めて顕著だ。米国内の労働者4000人以上を対象に実施されたDeloitte Digitalの労働力調査によると、自身の成長パスに確信を持っている従業員は、そうでない従業員に比べて会社に留まる確率が3.3倍高かった。一方で、成長していないと感じている従業員は、今後12カ月以内に退職する確率が2.5倍高くなっている。また、上司との関係が良好であると回答した従業員は、会社に留まる確率が3.4倍高かった。これらは単なるソフトな人事課題ではない。雇用関係の各次元に直結しており、これまでの研究で明らかになった定着率予測因子の中でも、特に強力な指標となっている。
AIが雇用関係の脆弱性をあらわにした
AIの波は、新たな関係性の力学を生み出したわけではない。すでに存在していた力学を無視することの代償を露呈させただけだ。そして雇用関係の各次元は、直接的な打撃を受けている。
まだ実現してもいないAI機能のために同僚が解雇されるのを目の当たりにし、その同僚を置き換えるはずだったテクノロジーが、代わりに6桁のインフラ請求書として届いたとき、組織への信頼は失墜する。Gartnerは、その後に起こる現象を「regrettable retention(後悔を伴うリテンション)」と名付けている。これは、意欲を失った従業員がその職に留まり続け、雇用主ブランドを積極的に損なう状態を指す。ただし、Gartnerがそれを「雇用上の取引」と呼ぶ点には限界がある。それでは雇用関係を動かす複雑さと感情を過小評価している。仕事は食卓に食べ物を並べ、頭上に屋根をもたらすものだ。中古車を買うのとはわけが違う。
その感情は、雇用関係におけるリーダーの次元にも表れている。信頼はあらゆる関係性の中核であり、最近ではリーダーの次元も同じように直接的な打撃を受けている。リーダーが公然と失敗する賭けに出たり、後に撤回される削減を発表したりすると、信頼は壊れる。従業員はそれが起きたことを忘れない。失望の中に沈み込む。これは単なる士気の問題ではない。エンゲージメント低下、そして離職へ向かう最初の一歩なのである。
Gallupの「グローバル・ワークプレイス報告書 2026年版」は、そのダメージを余すところなく記録している。世界の従業員エンゲージメントは20%に低下し、Gallupの追跡調査の歴史の中で初めて2年連続の低下を記録した。2022年の23%がピークだった。生産性低下による損失額は、推計で10兆ドル(約1600兆円)に上り、これがエンゲージメント低下の代償となっている。米国では、エンゲージメントが過去11年間で最低の水準に落ち込んでいる。
同レポートで最も憂慮すべき数字は、全体のエンゲージメント率ではない。管理職のエンゲージメント率である。管理職のエンゲージメントは、2022年の31%から2025年には22%に低下した。これが重要なのは、Gallup自身の調査によれば、チームレベルのエンゲージメントのばらつきの70%は管理職によって説明されるからである。
しかし、他のすべての企業が使うのと同じベンチマークに依存するところに課題がある。
それぞれの雇用関係は固有のものであり、それが置かれているエコシステムに照らして測定されなければならない。経済的に安定し、子どもが独立した夫婦の関係性と、支払いに追われながらもこれから子どもが生まれる新婚夫婦の関係性の強さを比較できないのと同様に、老舗のFortune 500企業と、プライベート・エクイティ(PE)が支援する高成長企業のエンゲージメントを比較することはできない。
両者の間には、関係性の健全さや合理的に期待できることに影響するニュアンスがあまりにも多い。変革の真っ只中にあり、人員削減後の企業におけるエンゲージメントは、過去最高益を発表し、それに見合う賞与を支給したばかりの企業とは常に異なる。
「人材の方程式」がもたらす新たな問題
エンゲージメントのデータはいったん脇に置き、労働市場そのものを見てみよう。2026年7月の雇用統計では、8万3000人の増加という大方の予測に対し、実際には2万3000人の雇用減少となった。これは予測から10万人以上も悪い方向へのぶれである。労働参加率は数カ月にわたり低下している。利用可能で経験豊富な人材のプールは拡大していない。大幅に人員を削減し、何らかの形で再構築や成長を計画する組織にとって、外部市場はこれまで慣れていたように救いの手を差し伸べてはくれない。
人材コンサルティング会社LHHの2026年調査によると、AI主導の解雇を実施した企業の30.9%が、再雇用にかかるコストが、人員削減によって節約できたはずのコストを最終的に上回ったと回答している。さらに42.4%の企業は、削減による節約分が再雇用コストに完全に相殺され、収支トントンであった。差し引きで得をしたのは、わずか26.7%にすぎない。一方で、雇用主の62%は、対象を絞った再配置や社内流動性の方が再雇用よりも低コストだと認めている。それにもかかわらず、人員削減を行った企業の半数超は、再配置を選択肢として正式に検討すらしていなかった。AI解雇のブーメランは現実のものであり、縮小する労働市場では、その見落としははるかに高くつく。
別の道を選んだ企業は、異なる種類の優位性を築いている。Walmartは、米国の従業員160万人のスキル開発とキャリアパスに長年投資し、かつて低賃金によって定義されていた人材ストーリーを体系的に書き換えてきた。Hiltonは、現場従業員のキャリア成長をキャンペーンではなく構造的なコミットメントとし、優れた雇用主として一貫して評価されている。両社は、より優れたマーケティングによって雇用主ブランドを高めたわけではない。雇用関係が実際に提供する価値を改善し、その真実に外部での働きを委ねたのである。
Pfizerもまた、この考え方を実践している好例だ。同社は人材モデルを「開発(development)」から「成長(growth)」へとシフトした。言葉の定義だけの違いのように聞こえるかもしれないが、その実態を見ればその重要性がわかる。
開発とは、組織があなたに対して「行う」ものである。これに対し、成長とは、あなたが歩む軌跡において組織をアクティブなパートナーとし、あなた自身が「主導する」ものである。課題は、これには時間がかかり、見返りがすぐに得られないという点だ。長期的なリターンに影響を与えたいのであれば、組織はこの時間差を受け入れる心のゆとりを持たなければならない。
経済合理性もこの点を裏づけている。McKinseyの人材再配置に関する調査は、社内流動性が外部採用をコストと生産性到達までの時間の両面で一貫して上回ることを示している。しかし再配置には、外部採用には不要なものが必要になる。関係資本である。信頼を損なった人材を再配置することはできない。投資が本物だと信じていない労働力をリスキリングすることはできない。関係性を第一に置く判断は、経済的にも合理的なものだと判明している。
リーダーに求められること
リーダーは、関係性に基づく思考が文化施策ではないことを理解しなければならない。それは、3つの具体的な転換を必要とするビジネス慣行である。
- 雇用関係を4つの次元すべてで測定する。
組織への信頼が最も弱いのはどこか。リーダーへの尊重はどこで損なわれたのか。仕事の次元は、意味あるキャリア成長からどこで切り離されているのか。 - キャリア成長をリテンション施策としてではなく、関係性のインフラに組み込む。
最もレジリエントな労働力を持つ企業は、従業員の軌道への投資を構造的なコミットメントにしている。人員圧力が生じると消える予算項目ではない。これは、信頼に足るAIリスキリング施策の基盤でもある。組織が自分たちの成長に投資していると信じる従業員は変化に前向きに取り組むが、そうでない従業員はおそらくそうしない。 - あらゆる人員再編の判断の前に、財務モデルと並行して関係性モデルを検討する。
この判断は各次元に何をもたらすのか。誰に対して、どのような関係性上のコストを伴うのか。AIに費やした額が人件費の削減額を上回ったと気づいている企業は、このステップを見落とした。失う必要のなかった人材を再雇用するために、いま費用を払っている企業も同じである。
AI主導の変革を最も効果的に乗り切る組織は、最も速く削減する組織ではない。再配置が必要になる前に、関係性の深さに投資していた組織である。



