数年前、私は今でもLuxury Presenceの経営に影響を与えているある決断を下した。社内の会話において、景気や市場環境の優先順位を下げたのだ。
もちろん、それらが重要ではないからというわけではない。私たちは不動産業界に身を置いており、当然ながら市場は顧客に影響を与え、ひいては当社にも影響が及ぶ。しかし、私はそれについて議論したときに何が起こるかに気づいていた。
住宅ローン金利が上昇し、取引量が減少し、業界にとって一様に悪いニュースが続く時期、市場はたちまち「説明」となり、そして「言い訳」へと変わっていった。社内の誰もコントロールできない要因のせいで、高いパフォーマンスを上げることが不可能に思えてくるのだ。企業がいったんその論理の中で動き始めると、そこから抜け出すのは極めて難しい。
そこで、私たちは枠組みを変えた。自分たちがコントロールできること、すなわち製品の品質、顧客体験、どこに投資し、何を構築するかという意思決定について話すようにした。外部要因は、関連がある場合には話題にのぼるが、それはあくまで「背景」としてであり、「レンズ(物事を見るフィルター)」としてではない。レンズは常に私たちの手の中にある。
市場の注視がなぜ罠になるのか
需要が比較的安定している業界に比べ、景気循環型の業界において景気から目をそらすことは、より困難であり、かつより重要である。不動産は金利、景況感、在庫水準、季節的パターンなどに敏感であり、これらはLuxury Presenceの誰も影響を及ぼせない条件だ。これらの要因を注意深く追跡し、達成可能な目標をそれに規定させようとする誘惑は本物である。私の経験上、その誘惑に負けてしまうチームは、実際に達成可能だったはずの成果を下回る傾向がある。
上場企業の優れたCEOたちが、まさにこの理由から、株価を無視すること、つまり自社が株価に執着しないよう積極的に働きかけることについて語るのを聞いたことがある。株価は不動産市場と同様、チームが実際に変えることはできないにもかかわらず、チームの注意をいとも簡単に奪ってしまうものだ。状況が良いときは人々は気が緩み、実行力が鈍る。状況が悪いときは過度に悲観し、優先順位を歪めてしまう。どちらの反応も役に立たない。製品、人材、顧客、プロセスなど、自分たちがコントロールできることに集中する方が、どちらの状況下でもより良い結果をもたらす。
機会を見いだす
市場の低迷について直感に反するのは、状況の改善を待つのではなく、自ら進んで探そうとするならば、低迷期特有の機会が生み出されるということだ。
例えば、住宅が売れないとき、エージェントは物件を動かすためのより多くのツールを必要とする。広告のリーチを広げ、市場に滞留している在庫に対する買い手の需要を喚起する手法などだ。私たちは、市場がこのようなツールの価値を通常よりも緊急に高める状況を作り出していることを見抜き、エージェントが特定の物件についてMetaやGoogleで広告を掲載できる「物件掲載広告」製品の開発で対応した。取引が活発な市場では、物件は特別な支援なしに動く。しかし、取引が停滞している市場では、エージェントは1件の取引ごとにより懸命に働く必要があり、それはより優れたツールを必要とすることを意味する。下降局面が製品開発を促し、それが困難な時期だけでなく、サイクルのあらゆる段階で有用であることが証明された。
これこそが、私が立ち返り続けるアプローチだ。市場の低迷を、耐え忍ぶべき一様な問題として捉えるのではなく、それが顧客にもたらす具体的なペインポイント(悩みの種)を探すのだ。彼らが今何に苦しんでいるのかを明確に特定できれば、実際に役立つものを構築し、競合が同じことに気づく前にそれを実行できる、より有利な立場に立つことができる。
危機が明らかにするもの
このパターンは、より広く当てはまる。過去20年間で最も持続力のある企業のいくつかは、2008年の金融危機直後に立ち上げられ、どこで価値を創造できるかについて規律と創造性を強制される状況下で築かれた。彼らは競合が見ていない場所にレバレッジを見出さなければならなかった。良好な環境に依存して業務上の弱点をごまかすことはできなかったため、それらの弱点を克服した。
やがて環境が改善したとき、彼らはある意味、その環境に対して「過剰な実力」を備えていた。厳しい状況を想定して構築してきたため、それまで困難だった市場が容易なものになったのだ。
「凡庸な企業は危機によって潰れ、優れた企業は危機によって強くなる」という言葉があるが、これには確かな真実があると思う。危機は、真の業務規律を持つ企業と、単に好都合な追い風に乗っていただけの企業との違いを覆い隠していた条件を取り除くことで、差別化を生み出す。追い風が止まったとき、その差が浮き彫りになる。
景気循環型の業界でビジネスを営むリーダーにとって、仕事とはサイクルの次の行き先を予測することでも、不都合な市場の現実からチームを守ることでもない。リーダーの仕事は、社内のエネルギーが自分たちのコントロール下にある意思決定や施策に集中し続けるようにすることであり、組織が状況の改善を待つのではなく、制約された状況の中で機会を見出す習慣を身につけるようにすることである。
状況が改善したとき、そしていずれ必ず改善するのだが、そのときに目指すべきは、下降局面を通じて築き上げた企業であって、その間ただ停滞していた企業ではない。



