ところで、この規模の寄付では、米国での課税所得控除の問題がつきまとう。慈善活動への寄付に対して課税所得控除を受けられるのは、寄付の総額が調整後総所得(AGI)の50%以下までだ。450億ドルを45年間で段階的に寄付し続けるとして、1年あたりの寄付額10億ドル(日本円で約1220億円)は、さすがのザッカーバーグ氏にしてみてもAGIの50%を超える可能性があり、そうなると課税所得控除の申告に制限が出てくることになる。
問題はそれだけではない。米国で高額納税者が控除を受ける場合には、高額納税者からの税収を確保するPease Limitationsという壁が立ちはだかる。2015年度にPease Limitationsが適用されるのは、既婚の場合、年収30万9900ドル(日本円で37,800,000円)以上の納税者が対象だ。その上限を超える納税者は、控除対象を除くAGIの3%もしくはItemized deduction(控除項目)の80%のいずれか少ない方が控除額となる。
Pease Limitationsは慈善活動への寄付や、住宅ローンの金利、州税や地方税など様々なitemized deductionsが対象となる一方、医療費や投資、賭博での損失、予期しなかった損失などへは適用されない。慈善活動への寄付については、寄付対象となる組織や事業目的、資産益などによってその他の制限が適用されることもある。
そう、ここで出てきた資産益というのが、単に慈善活動に対する控除という意味合い以上の節税効果をもたらすのだ。なぜなら慈善活動へ資産を寄付することによって、資産益に対する税金を支払わなくてすむからだ。
からくりはこうだ。たとえばあなたが保有する株式のうち1000ドルを慈善活動へ寄付するとしよう。あなたがその株を当初100ドルで購入したとして、もし寄付をする前にその株を売ってしまったら、1000ドルが手に入るが900ドルの資産益に対して納税義務が残る。仮に税率が20%なら、180ドルは税金に消えるわけだ。もしあなたがその税金を納めた後で寄付をしたとしたら、寄付される側は820ドルを受け取り、あなたも820ドルの控除を受けることになる。
でも、もしあなたが1000ドルの株式をそのまま慈善活動へ寄付したとしたらどうだろう? その場合、あなたは資産益にかかる税金を払わなくてよいだけでなく、1000ドルの控除を受けられる。寄付を受けた慈善団体も、1000ドルの株式をそのまま売ってしまえば資産益にかかる税金を納めなくてよく(慈善団体は資産益に対する納税の免除対象)、1000ドルが手元に残る。寄付する側もされる側も、win-winの結果になるのだ。
ここで、ザッカーバーグ氏が公表した5兆5千億円相当の株式の寄付について考えてみてほしい。どれだけ多額の節税につながるかは明白だ。このシナリオのよいところは、億万長者だけでなく、すべての納税者に当てはまるという点だ。
ここまで述べて、今回のザッカーバーグ氏の行動から学べることは何だろう? 第一に、大学を卒業しなくてもビリオネアになれるということ。第二に、子どもができると世の中のあらゆるものに対する視点が完全に変化するということ。そして最後に、慈善活動へ寄付することは、世の中に変化をもたらすだけでなく、あなたの納税負担を減らす究極の方法だということだ。
ザッカーバーグ氏に刺激を受けたなら、今日からでも始めてみてはいかが?