経営・戦略

2026.08.29 09:47

「インド人の視界をクリアに」というビジョンでビリオネアになった起業家

Adobe Stock

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アイウェア小売りのレンズカート・ソリューションズ(Lenskart Solutions)の共同創業者であるピーユシュ・バンサル(Peyush Bansal)が、インド人として新たに「3つのカンマのクラブ(保有資産10億ドル(約1600億円)以上のビリオネア)」の仲間入りを果たした。ソフトバンクが支援するレンズカートは9カ月前に上場し、先週、インドのナショナル証券取引所で株価が過去最高値となる627ルピー近くに達した。時価総額110億ドル(約1兆7600億円)の同社株を9%近く保有するバンサルの持ち分と、新規株式公開(IPO)時の株式売却益を合わせると、彼の資産額は推定10億ドル(約1600億円)に達する。

同社の株価が急騰したのは、国内外の市場で売上高が急増したことを背景に、6月30日に終了した四半期の純利益が前年同期比4倍の22億8000万ルピー(2400万ドル(約38億3000万円))に達したと発表したためだ。インド北部の都市ファリダバードに本社を置くレンズカートは、眼鏡からサングラス、アイウェアアクセサリーに至るまで、オンラインおよび店舗ネットワークを通じて幅広く販売している。

同社は、157都市に2725店舗を展開するインド国内だけでなく、日本、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)など16カ国に進出している。直近の四半期には132店舗(インド国内で116店舗、海外で16店舗)を新たに開設し、総店舗数は3459店舗に達した。

バンサル(42)は2010年、マーチャンダイジングを統括する姉のネハ、調達責任者のアミット・チョードリー、店舗ネットワークを統括するスミート・カパヒという、他の2人の共同創業者とともに事業を立ち上げた。当初は、顧客がバーチャルで眼鏡を試着できる3D機能を提供するオンライン小売業者としてスタートした。その後、オフラインにも進出し、2013年にニューデリーに1号店をオープンした。

「眼鏡を買うというのは、簡単な決断ではない」と、グルガオンに拠点を置く小売コンサルティング会社ザ・ナレッジ・カンパニー(The Knowledge Company)の会長、アルヴィンド・シンハル(Arvind Singhal)は言う。「家族や友人の意見を聞きたいものだし、幅広い品揃えを見たいものだ。レンズカートが方向性を修正し、実店舗を開いたのは良い判断だった」

バンサルは2025年11月に同社を上場させ、28倍の超過申し込みを記録したIPOで8億2100万ドル(約1310億円)を調達した。しかし、初値は公開価格を3%下回った。

ソフトバンクが最初にレンズカートに投資したのは2019年12月で、2億7500万ドル(約439億円)の資金調達ラウンドを主導し、同社をユニコーン企業へと押し上げた。この日本の投資会社はIPO時に少量の株式を売却したが、6カ月のロックアップ期間が終了した後の6月に、より大きな3.25%の株式を3億ドル(約479億円)で売却した。現在も10%近い株式を保有する筆頭株主である。その他の有力な投資家には、アブダビ投資庁、プライベート・エクイティ大手のKKR、TPGなどが名を連ねる。

カナダのマギル大学で電気工学の学士号を取得したバンサルは、米国レッドモンドのマイクロソフトでキャリアをスタートさせ、MS Office製品のプログラムマネージャーとして勤務した。しかし1年足らずで退職し、2007年にインドに帰国。その翌年に、学生向けのキャンパス周辺の住宅探しを支援するウェブサイト「searchmycampus.com」を運営するバリュー・テクノロジーズ(Valyoo Technologies)を立ち上げた。

インドにおけるアイケアとアイウェアの市場が十分に開拓されていないという記事を読んだことが、彼に新たな方向性を与えた。全国の無数の小規模な眼鏡店が支配している市場において、組織化されたアイウェア小売ビジネスは絶好の機会だったのだ。彼は本格的に参入する前に、ビジネスをより深く理解するためにデリーにあるこうした眼鏡店の一つで働いた。

ムンバイの投資会社ICICIダイレクトが2025年10月に発表したレポートによると、インドのアイウェア市場の規模は2025年度に92億ドル(約1兆4700億円)に達し、2030年度には172億ドル(約2兆7500億円)に拡大すると予測されている。売上高の75%を度入り眼鏡が占め、サングラスが20億ドル(約3190億円)(全体の5分の1強)、残りをコンタクトレンズが占めている。サングラスの売上高は2030年度までにほぼ倍増して40億ドル(約6390億円)に達する見込みで、コンタクトレンズ部門は同期間に4億8000万ドル(約766億円)から7億3000万ドル(約1170億円)に拡大すると予想されている。

レンズカートの主なライバルは、タタ・グループ傘下のタイタン・カンパニー(Titan Company)のアイウェア部門であるタイタン・アイプラス(Titan Eye+)だが、同社の2026年度の売上高は91億6000万ルピー、店舗数は1000店舗未満であり、いずれもレンズカートに大きく差をつけられている。コルカタを拠点とするヒマラヤ・オプティカルズ(Himalaya Opticals)やデリーを拠点とするボントン・オプティシャンズ(Bonton Opticians)などの伝統的な小売り企業は、ラグジュアリーおよびプレミアムのニッチ分野で競合している。

アナリストらは、アイウェア市場にはすべてのプレイヤーが参入できる十分な余地があると指摘する。ICICIダイレクトの推計によると、2020年時点でインド人口の43%が視力低下を抱えており、2030年までにインド人のほぼ3分の2が眼鏡を必要とするようになるという。

このトレンドを見越して、バンサルはレンズカートの実店舗ネットワークを強化してきた。店舗数は2022年に1000店舗を、2025年には2000店舗を突破した。海外展開は2019年のシンガポールでの店舗開設に始まり、現在では65店舗にまで拡大している。2022年にはドバイに店舗をオープンしてUAEに進出し、2023年にはサウジアラビアに進出した。

2022年6月、バンサルはさらに視線を遠くに向け、日本のアイウェアブランドであるオンデーズ(OWNDAYS)の過半数株式を4億ドル(約639億円)で取得した。オンデーズの店舗数は、レンズカートによる買収時の460店舗から、現在は669店舗に増加している。

3月31日に終了した年度において、レンズカートの純利益は前年比148%増の53億ルピーに急増し、売上高はほぼ3分の1増の900億ルピーに達した。アナリストは、同社が規模のメリットと垂直統合(バックワード・インテグレーション)の恩恵を享受していると分析する。レンズカートはラジャスタン州の工場でレンズを製造しているほか、中国・鄭州市の工場でフレームを製造する合弁事業を展開している。また、インド南部の都市ハイデラバードにある50エーカーの敷地に、年間5000万本の生産能力を持つ新工場の建設を進めている。

「レンズカートのビジネスモデルは唯一無二だ」とシンハルは語る。「製造規模や提供する品揃えの面において、タイタンでさえも彼らが成し遂げたことを実現できていない」

とはいえ、課題も残されている。ムンバイに拠点を置くコタック・セキュリティーズ(Kotak Securities)でファンダメンタルズ調査担当のバイスプレジデント代理を務めるアマールジート・マウリヤ(Amarjeet Maurya)は、次のように指摘する。「レンズカートが成長と収益性を維持できるかどうかは、4つの重要な領域、すなわち、安定的かつコスト効率の高い原材料の調達、途切れのない製造オペレーションの維持、熟練したビジョンケア(視覚ケア)人材の確保と維持、そして激化するアイウェア業界の世界的な競争への対応において、どれだけの回復力を発揮できるかにかかっている」

取材に対するコメントを控えたバンサルだが、直近の四半期決算説明資料でレンズカートのビジョンを次のように語っている。「私たちは眼鏡を販売することから始めました」と彼は記している。「10億人の人々の見え方や世界を体験する方法を変えることは、常に私たちの夢でした。これに挑戦できる企業はそう多くありません。まだスタートしたばかり(Day Zero)なのです」

forbes.com 原文

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