3つ目の貢献は、免疫学に関わるものだ。2012年に『Science』に掲載されたマウスを使った実験では、皮膚の常在菌が、その場所の免疫細胞の行動を規定することが判明している。これはつまり、常在菌が免疫細胞に対して、どの生物を容認し、どの生物は脅威とみなすかという判断基準を実質的に教えているということだ。
これはマウスモデルでの知見だが、より範囲の広い仮説にも適合する。それは、「免疫系は、日常的に微生物に暴露される環境でないと正常に発達しない」という説であり、「旧友仮説(old-friends hypothesis)」あるいは「衛生仮説(hygiene hypothesis)」と呼ばれることもある。この仮説に関しては、おおむね一貫した方向性のエビデンスが示されているが、ヒトにおける具体的な仕組みについては、いまだに活発に研究されている状況だ。
皮膚にすむ細菌の仕業として、毎日の生活で気づくものが一つある。わきの下のアポクリン腺から分泌される汗は、皮膚の表面に出てきた時点ではほぼ無臭だ。だが、2015年に『Microbiome』に掲載された研究で、わきの下にすむ細菌の組成が、体臭の強さと密接に関係していることがわかった。
これは、汗がにおうメカニズムとも一致した研究結果だ。なぜなら、皮膚にすむ細菌は、もともとは無臭である汗の分子を分解し、揮発性のある硫黄化合物に変えるが、この化合物が体臭のもととなっているからだ。これはまた、細菌に働きかけるデオドラント剤が効果的な理由でもある。
皮膚の上に存在する生態系
皮膚の湿疹に関しては、前述した黄色ブドウ球菌と炎症の発生には強い関連があるとされている。それまでバランスの取れていた菌集団において、黄色ブドウ球菌が優勢になると、「ディスバイオーシス」(常在細菌叢のバランスが崩れ、体に悪影響を及ぼしている状態)という異常な状態が起きる。
こうしたバランスの崩れた状態が炎症の引き金になるのか、あるいは、炎症がバランスが崩れやすい状態を作り出すのかについては、いまだに議論がある。実際にはこの関係は、相互に作用し合っているのだろう。
同様の疑問は、ニキビダニと酒さ(主に顔面に赤みやできものができる皮膚疾患)の関係においてもつきまとう。皮膚上のダニ密度が高いことは、酒さの発症と関係しているが、因果関係の切り分けは困難であることが示されている。
一つ明確なのは、こうした集団を完全に除去することは、実現可能ではなく、望ましくもないということだ。洗顔によって、皮膚表面の脂や不要物、たまたま皮膚の上にいた生物を取り去ることはできるが、その後はまた、石鹸の泡が届かない毛包や汗腺から常在の生物が出てきて、ものの数時間で、元の状態に戻るだろう。
最も正確な理解は、皮膚の上を一つの生態系として考えることだ。人間の体は、長い時間をかけてこの環境に適応してきた数多くの種の生物たちがすむ、一つの生息域として機能している。そうした生物の一部は、環境維持の役割も果たしており、彼らの働きが止まれば、宿主の人間もすぐに異変に気がつくようになっているのだ。


