NEWS 「Forbes Store」オープン! FRAGMENTコラボも展開

AI

2026.09.05 14:15

なぜAIは人間が思いつかないアイデアを出せるのか——「常識の欠如」こそ創造の源泉である

LanaSham - stock.adobe.com

LanaSham - stock.adobe.com

「AIに創造性はありますか?」。経営者や技術者と話すと、必ずと言っていいほどこの話題に行き着く。多くの人が心のどこかで、「計算や分析はAIの得意分野だが、0から1を生み出す『創造』だけは人間の聖域だ」と思っているのではないだろうか?

advertisement

だが、その境界線はいま急速に溶けている。生成AIが描く絵画や楽曲はもはや珍しくなく、2026年に入ってからは、AIが仮説立案から実験設計、検証までに能動的に関与する「Co-scientist(共同研究者)」型のシステムが科学の現場を変え始めた。従来数年を要した発見のプロセスを数週間に短縮する可能性が示され、日本政府も2026年度からの5年間を集中改革期間と位置づける「AI for Science」の国家戦略を打ち出している。創造は、もはや人間だけの特権ではない。私の答えはこうだ。AIも創造できる。しかも、人間が到底到達できない方法で。本章では、AIの本質的な強みである「常識の欠如」に焦点を当て、イノベーションの正体を解き明かしたい。

アナリシスからシンセシスへ——AIは「新結合」の名手である

これまでAIの主戦場は「アナリシス(分析)」だった。データを分解し、傾向を見つけ、最適解を弾き出す。一方、要素を組み合わせて新しい何かを生む「シンセシス(統合・創造)」は人間の役割とされてきた。だがIBMの「シェフ・ワトソン」は、数万のレシピと食材の化学成分を学習し、「チョコレートとブルーチーズ」のような、人間のシェフなら試す前に却下する組み合わせを提案した。実際に調理すると、驚くほど美味しかったという。

ここで思い出すべきは、経済学者シュンペーターによるイノベーションの定義だ。それは技術革新ではなく「新結合(New Combination)」——既存の知と既存の知を、新しく組み合わせることである。パンとあんこを組み合わせたアンパンに、新技術は何一つない。あったのはアイデア、すなわち新結合だけだ。そしてAIが得意なのは、まさにこれである。膨大なデータを持ちながら、結びつける際の「常識のブロック」がないため、人間ならスルーする数億通りの組み合わせを総当たりで試行できるのだ。

advertisement

「常識の欠如」という才能——ドアミラーは非常識から生まれた

なぜAIは人間に思いつかないアイデアを出せるのか。逆説的だが、「倫理観や常識がないから」である。イノベーションにとって最大の敵は、常識・倫理・コンプライアンスだ。人間は成長の過程で「これはやってはいけない」「前例がない」というブレーキを刷り込まれ、無意識に発想の幅を狭めている。かつて印象派の画家たちが「デッサンが狂っている」と酷評されながら新しい美の概念を創造できたのは、彼らが常識の外側にいたからではないだろうか。

象徴的な例が、車のサイドミラーである。かつて日本ではフェンダーミラーが法律で義務付けられ、ドアミラーは「違法」だった。では日本で最初にドアミラーを取り入れたのは誰か。メーカーの技術者ではない。「かっこいいから」という理由だけで法を無視して改造した、若者である。当時「社会悪」とされた彼らの選択は、いまや99%の車が採用する世界標準となった。イノベーションの種は、最初は「異端」や「非常識」の領域から生まれる。AIはある意味でこの車好きの若者たちに似ている。社会的な忖度なしに「最適だから」と平気で常識外れの提案をしてくる。それをハルシネーションやエラーとして切り捨てるのか、「人間には見えていない新結合の可能性」として面白がるのか。AI時代のリーダーの資質はそこで問われる(無論、違法行為を推奨するものではない)。

次ページ > AmazonとiTunesが証明した——破壊すべきは技術ではなく「業界の常識」

文=茶谷公之

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事