そこで立ち上がったのが、「流域のがっこう」の構想だ。
目指すのは、人が自然を消費するのでなく、「人が住むほどに自然が澄んでいく」暮らしや観光の姿。その実証場所ともなる新たな拠点は、土中の見えない水の流れや菌類にも配慮する“菌築”という名の建築アプローチを採用し、国内外で25のアワードを受賞。「人間の快適性だけじゃなく、自然と共生する視点に気づく体験」の説得力を増した。事業自体は8人が共同出資している。
22年の開業から試走を経て、現在は月3~5組が体験に訪れる。国籍はさまざまだが、建築界隈や地域でことを起こそうとしている人が多いという。
「島の言葉」を大切に
この2年は敷地内の水田の再生を中心に取り組んできた。それにより生物や地下水が増え、米も収穫できるようになった。次はその脇に、水源の森の木材で小屋をつくる予定だ。「昔はこうやって暮らしていたんですよね」というが、原始的な暮らしを推奨したいわけではない。暮らしが自然の循環のなかにあるというメッセージが根底にある。
一方、その伝え方においては、「外から新しいコンセプトをもち込むのではなく、島の言葉を大切にしている」と語る。例えば、「山10日、海10日、里10日」。それぞれの場所から少しづつ恵みを分けてもらい、必要以上を獲らないという昔からの教訓だ。
世界遺産への登録を機に制定された「屋久島憲章」も大切な指針としている。「地球と人類の宝物である屋久島、と始まる壮大な憲章には、島の価値を問い続けるとあるのですが、その答えのひとつが、流域だと思っています。水を共有していると再認識できれば、それぞれができることをもち寄っていける」。
徐々に島民にも流域の概念が浸透し、小野がかかわる環境再生型の建築が増えてきているのも、こうした姿勢があってこそだろう。周囲132km、日本で5番目に大きい屋久島で、流域のがっこうは主に東側をフィールドとするが、島内のほかの地域でも展開できれば、新たな観光の軸となるかもしれない。
「世界中からいろんな人が来て、自分の住む場所や水を共有する感覚をもつ人が増え、さらには流域の再生を同時多発的にできたらうれしいですね」
今村祐樹◎モスガイドクラブ/流域のがっこう代表。1978年大阪府生まれ。2002年に屋久島へ移住。森から海までを水の巡りが繋ぐ『流域』をフィールドに、リジェネラティブをキーワードとしたプロジェクトを進める。


