2026.09.11 13:30

屋久島で逆転の発想を体験 「住むほどに自然が澄んでいく」とは

今村祐樹|モスガイドクラブ/流域のがっこう代表

そこで立ち上がったのが、「流域のがっこう」の構想だ。

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目指すのは、人が自然を消費するのでなく、「人が住むほどに自然が澄んでいく」暮らしや観光の姿。その実証場所ともなる新たな拠点は、土中の見えない水の流れや菌類にも配慮する“菌築”という名の建築アプローチを採用し、国内外で25のアワードを受賞。「人間の快適性だけじゃなく、自然と共生する視点に気づく体験」の説得力を増した。事業自体は8人が共同出資している。

22年の開業から試走を経て、現在は月3~5組が体験に訪れる。国籍はさまざまだが、建築界隈や地域でことを起こそうとしている人が多いという。

黒板に描かれているのは、流域のがっこうを中心とした屋久島の地形。見えない水の流れや海岸湧水、生態系や循環を頭で理解すると体験はさらに深まる。
黒板に描かれているのは、流域のがっこうを中心とした屋久島の地形。見えない水の流れや海岸湧水、生態系や循環を頭で理解すると体験はさらに深まる。

「島の言葉」を大切に

この2年は敷地内の水田の再生を中心に取り組んできた。それにより生物や地下水が増え、米も収穫できるようになった。次はその脇に、水源の森の木材で小屋をつくる予定だ。「昔はこうやって暮らしていたんですよね」というが、原始的な暮らしを推奨したいわけではない。暮らしが自然の循環のなかにあるというメッセージが根底にある。

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一方、その伝え方においては、「外から新しいコンセプトをもち込むのではなく、島の言葉を大切にしている」と語る。例えば、「山10日、海10日、里10日」。それぞれの場所から少しづつ恵みを分けてもらい、必要以上を獲らないという昔からの教訓だ。

世界遺産への登録を機に制定された「屋久島憲章」も大切な指針としている。「地球と人類の宝物である屋久島、と始まる壮大な憲章には、島の価値を問い続けるとあるのですが、その答えのひとつが、流域だと思っています。水を共有していると再認識できれば、それぞれができることをもち寄っていける」。

円形の屋久島で、流域のがっこうが面するのは太平洋側。取材に訪れたのは台風一過だが、波が音を立てていた。島の名物である飛魚や海亀はそこを流れる黒潮に乗ってやってくるという。
円形の屋久島で、流域のがっこうが面するのは太平洋側。取材に訪れたのは台風一過だが、波が音を立てていた。島の名物である飛魚や海亀はそこを流れる黒潮に乗ってやってくるという。

徐々に島民にも流域の概念が浸透し、小野がかかわる環境再生型の建築が増えてきているのも、こうした姿勢があってこそだろう。周囲132km、日本で5番目に大きい屋久島で、流域のがっこうは主に東側をフィールドとするが、島内のほかの地域でも展開できれば、新たな観光の軸となるかもしれない。

「世界中からいろんな人が来て、自分の住む場所や水を共有する感覚をもつ人が増え、さらには流域の再生を同時多発的にできたらうれしいですね」


今村祐樹◎モスガイドクラブ/流域のがっこう代表。1978年大阪府生まれ。2002年に屋久島へ移住。森から海までを水の巡りが繋ぐ『流域』をフィールドに、リジェネラティブをキーワードとしたプロジェクトを進める。

【特集】Destinations of the Year2026

数や低価格を競う"消費される観光"から、地域固有の体験を軸に、経済と文化が"循環する観光"へ。観光産業の「質的転換」が求められる今、「体験がデスティネーションになる」という考え方が鍵となる。

Forbes JAPANは今年、J-CATを共催に迎え、新たなアワード「Destinations of the Year」を創設。工芸、食、自然、風習——各地で新たな観光価値を創造する30の事業者を選出、審査項目に沿って、特に象徴的な5つの取り組みを賞としてピックアップした。

文=鈴木奈央 写真=仁科勝介

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