1本目の論文は、「ChatGPT as a cognitive crutch(認知の杖としてのChatGPT)」というタイトルで、ピアレビュー(同分野の研究者による審査)制度がある学術誌に掲載された。この論文を書いたアンドレ・バルカウイは、大学の学部生を対象に、ChatGPTが知識の定着に及ぼす影響を検証するランダム化比較試験を実施した。
参加者は、二つのグループにランダムに振り分けられた。一つは、AIのアシストを受けて学習をするグループ、もう一つは、従来型の学習を行なったグループだ。それから、この学習から45日後に抜き打ちテストを行ない、知識の定着度を評価した。
論文の概要には、以下のような記述がある。「定着度テストにおいて、ChatGPTを用いた学生の正答率(57.5%)は、従来型の学習を行なった学生の正答率(68.5%)に比べて、有意に低い値を記録した(t値(83)=-3.19、p値=0.002、Cohenのd=0.68)。この結果からは、ChatGPTを使うことで、長期的な知識の定着が阻害されたことが示唆される。これは、永続性のある記憶を保つために有用な、認知能力を用いる努力を怠ったことが原因である可能性が高い」
2本目は、現時点で執筆中の論文で、「The generative AI learning penalty(生成AIを使った学習の代償)」というタイトルがつけられている。著者のダビド・ストレンベリ、ヴィクトル・レイ、ヤンフイ・ウーの3氏は、論文概要で以下のように記している。
「中学1年生から高校3年生までの中国人の学生2万6811人を対象とした30カ月分のパネルデータを用いて、生成AIが、宿題の生産性および学習に与える影響を検証した。このデータは、9つの教科を対象に、教科書持ち込み不可の月次試験、高校および大学の入学試験、宿題の点数と、完了までにかかった時間を組み合わせたものだった。我々は、差分の差分法(difference in differences:DID)の枠組みによって、段階的なAI導入を検証した。
その結果、AIの導入により宿題の成績は18%アップし、完了までの時間も30%短縮されたが、月次試験の点数は、6カ月のあいだに30%下落した。さらに重要度の高い入学試験の点数は18%と24%落ち込み、(生成AIの使用による)本格的な代償が、わずか2年ほどで生じることが判明した。下落幅は、社会科学系の教科で最も大きく、STEM(科学技術)と語学がこれに続いた。また、年少者、成績の良い者、男子学生で、下落幅が特に大きい傾向があった」
評論家のニコラス・カーは2008年、「Googleは我々を愚かにする」と主張した。テクノロジーの歴史を振り返ると、新たなテクノロジーが現れるたびに、我々が愚かになってきたと断言はできないものの、これまでのテクノロジーは、あらゆる問題を解決し、思考できるよう作られた汎用人工知能(AGI)ではなかった。
今ならまだ、我々はAIというテクノロジーを、人間の知的活動を補完する形で用いる道を選ぶこともできる。つまり、コーディングをはじめとする、生活のなかで生じる単調なタスクの高速化を担ってもらう、という道だ。しかし我々はまたこのテクノロジーを、自らの考えを導いてもらうために用いることも選べる──さらには、我々の思考の多くをAIで置き換えることさえも。


