事の発端は2013年に始まる。そしてこの問題は、EU加盟を目指すモンテネグロが、真に自由で健全な経済活動を実現できるか疑問符をつけている。実際、それまでKAPの経営についてCEACとパートナー関係にあったモンテネグロ政府が、同国の5,280億円のGDPのほとんどを稼ぎ出すKAPの経営からロシア人を排除したのは、EU加盟交渉開始とちょうど同じ時期だ。モンテネグロ一国のGDPとほぼ同等の資産を持つデリパスカ氏は、この取引に直接関わってはいなかったものの、KAPの33%の株を保持していた。つまり、モンテネグロ政府のロシア企業排除によって、デリパスカ氏は多額の損失を被った。現在、デリパスカ氏はモンテネグロ政府を相手に日本円で168億円相当の損害賠償を求めて訴えを起こしている。
CEACは2005年に約65億円でKAPを買収した。KAPの経営はCEACが取り仕切っていたが、モンテネグロ政府も対等のパートナーとなり、CEACとモンテネグロ政府の双方が33%の経営権を掌握し、残りが市場で取引されていた。2013年にモンテネグロ政府はEU加盟の条件を満たしていないことを懸念し、同国の抱える負債を消滅させる必要があった。モンテネグロ政府がKAPの破産手続きに入った経緯について、ポツルバッハ氏はFORBESの取材に応じ、「2013年の末までに、モンテネグロ政府がKAPの破産手続きに乗じて我々を退去させようとしていたのは明らかだった」と語った。
KAPの破産は数週間のうちに宣言され、CEAC側にはすべての就労ビザが無効になるというモンテネグロ政府からの公式な通知が届いたという。さらに、KAPの株式の3分の1を保有していたにも関わらず、ENTSO-Eとして知られる欧州の系統運営機関から電気を盗んだとしてモンテネグロ政府から容疑をかけられた。
11月10日に公表されたモンテネグロのEU加盟に関する進捗レポートのなかで、KAPは財政面で大きなネックになっていると指摘されている。デリパスカ氏の裁判はそのKAPの今後を大きく左右することになりそうだ。
CEACとモンテネグロ政府は、過去3年でこのような争いを繰り返している。前述のレポートについて、CEACの業務部門ディレクターであるアンドレー・ペトルシニン氏は「欧州委員会はモンテネグロが抱える法の支配に関わる重大な懸念事項を見過ごしているようだ」と指摘した。
レポートには、「KAPのアルミ溶鉱炉の売却は2015年8月に合意された」としているが、デリパスカ氏は反論している。CEACはモンテネグロ政府の対応のまずさが次々に明らかになってくるとみている。破産管財人に対する売却金の支払いはなされておらず、資金は預託口座へ払い込まれており、破産管財人が譲り受けるまでに必要な数々の条件を満たしていない。
モンテネグロ政府はCEACがKAPの経営を誤ったと非難し、「モンテネグロ政府は事態を掌握しており、我々がとった対応についてCEACをはじめ他の何物も異論を唱えることはできない」とした。この件に関してモンテネグロ大使館に問い合わせたが、まだ返答は得られていない。モンテネグロは2007年から徐々に欧州へ接近しつつある。