米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始すると、石油動向に関する共通認識が形成された。すなわち、原油価格が急騰した後、紛争は短期間で終結し、価格は間もなく攻撃前の水準近くに収束し、ホルムズ海峡が再開されれば石油需要もかつての上昇軌道に戻るというものだ。
アナリストの多くは、国際エネルギー機関(IEA)の見解に追随してきた。IEAが毎月公表している「石油市場報告書」の8月号では、「世界の石油需要は第2四半期に日量490万バレル、第3四半期に同280万バレル減少した後、第4四半期には同58万バレルの増加に転じる」と予測されている。筆者が執筆に携わっているノルウェーの認証サービス会社DNVの報告書も、この前提に基づいて作成されてきた。
しかし今こそ、私たちの見方が間違っている可能性を認めるべき時だ。原油価格は下落していない。2月末の時点では、米国とイランの紛争が長期化する可能性は低いとみられていた。だが、8月となった現在も紛争が続いているだけでなく、周辺地域からの石油輸出が正常化する兆しも見られない。
石油の需要破壊
世界の石油生産、価格、需要は、ホルムズ海峡を通る石油の流れに大きく左右される。ペルシャ湾岸諸国以外の産油国は、ある程度生産量を増やすことができるほか、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)産の石油の一部は同海峡を迂回(うかい)して、他の港に輸送することもできる。世界の石油在庫は膨大な量に及び、供給不足に対する緩衝材として重要な役割を果たしている。ホルムズ海峡は完全に開放されているわけではないが、完全に封鎖されているわけでもない。それにもかかわらず、世界の石油供給量は紛争前の水準に比べて日量500万バレル以上減少している。本稿執筆時点では、需要も日量300万バレル以上減少している。これは日本の石油消費量とほぼ同じ規模だ。
世界の石油の大部分は輸送に利用されている。アジアでは道路輸送需要が激減しており、米国でもガソリン価格の上昇に伴う運転頻度の減少により、緩やかな需要破壊が見られる。長期的な影響という観点では、ホルムズ海峡の混乱に伴う原油価格の高騰によって、電気自動車(EV)への移行が加速しているようだ。中国、欧州、北米以外の「新規市場」での7月のEV販売台数は前年同月比97%増加した。特に中国で、石油化学原料の生産に用いられる原油の使用量が減少傾向にある。



