日々のニュースで「経済安全保障」という言葉は、これを聞かない日はないほど重視されるキーワードとなった。企業の経営会議でも常に重要テーマである。各企業のなかで経済安全保障を担当する専任者や専門部署も増えてきた。まさに経済安全保障が花盛りの状況である。
ところが、いまだに企業経営の最前線の現場から聞かれるのは、「経済安全保障の大切さはわかったが、自社内で具体的に何をしたらよいかがわからない」、「いろいろ試行しているが、どうもうまく行かない」といった声だ。そもそも、新出の概念を既存の経営システムのなかに取り込もうとするのは難しい。正解や模範事例がある訳でもなく、日本中で壮大な試行錯誤がなされているというのが実態だろう。
ここでは、総合商社でリスクマネジメントを長年担当してきた筆者が考える「経済安全保障・経営実装5カ条」を提案してみたい。大企業のみならず、中堅・中小企業でもすぐに適用可能な考え方だ。
第1条:「コンプライアンス」より「リスクマネジメント」で考える
第2条:自社の「クラウンジュエル」を特定する
第3条:サプライチェーンをひたすら遡る
第4条:「経済合理性」の経営判断軸に2本目の「経済安全保障」の軸を加える
第5条:経済インテリジェンスの収集・活用体制を整備する
経済安全保障を考える際にまず覚えておいてほしいのは、コンプライアンスすなわち法令順守で考えてよい部分と、それだけでは足りない部分があるということである。法律は守らなければならないが、経済安全保障で問題となるのは、紛争や有事によるサプライチェーン途絶、人権のレピュテーションリスクやサイバーアタックによる技術窃取、工場停止リスクなどである。法律だけ守っていれば済むことではない。もちろん、コンプライアンスは重要だが、それで対処できない場合はリスクマネジメントとして対処する姿勢が肝要である。
次に大切なのが、対処すべきポイントの限定・特定だ。自社の「クラウンジュエル」とは、どうしても守らなければならない重要な技術やノウハウを指す。それだけは確実に守り、逆に、それ以外は今までと同じ管理でよいとする。対象を限定することで、課題の解像度が上がり、対応しやすくなる。それが経済安全保障を具体的に進める要諦である。



