一度、クラウンジュエルが特定できれば、後はひたすらサプライチェーンをさかのぼって確認し、途絶リスクを検証する。必要な対処の際、単に「経済合理性」の判断軸のみで考えるのではなく、「経済安全保障」の軸も合わせて経営判断をする必要がある。複数の調達源を開拓したり育成したりしていなければ、唯一の調達源が何らかの理由で途絶した場合に、ビジネスが途端に継続不能になってしまう。そうしたリスクもあらかじめ踏まえ、日ごろから経営判断をすべきということである。
最後は経済インテリジェンスの活用である。
実は企業において問題となるのは、外部から入手した「地経学リスク情報」と、自社内の「ビジネス情報」とをどのようにかけ合わせ、自社にとっての具体的なリスク発現可能性を想定するかということである。経済安全保障に関して、しばしば大企業はスタッフも情報収集力もあるため対応しやすく、中小企業は難しいという懸念を耳にする。
しかしながら、それは実は逆ではないかと考える。過去の経営多角化により農業や医療、半導体材料から宇宙まで実に幅広い分野に手を広げ、かつ世界中でビジネス展開する大企業の場合、経済インテリジェンスの活用は、より難しい可能性がある。逆に中小企業であれば、社長と調達、経理の責任者が3人集まって膝詰めで2時間ほど議論すればよい。自社は経済安全保障上懸念があるような商材の取り扱いはあるか、自社の工場や主要取引先は、紛争や経済制裁等が考えられる地経学リスクの大きい国や地域に存在しているか、重要商材の部品や原材料が世界のどこで生産され、どのルートで自社に届くか、といったことを簡単に調べて一定の結論を出したらよいのだ。
企業経営者におかれては、まずはこの「経営実装5カ条」に照らして自社の経済安全保障のポイントを特定したらどうか。仮に自社のみで対処し切れない場合には、経済産業省などの官庁やシンクタンク、法律事務所など、さまざまな情報・アドバイスの提供者に相談することも有益だ。すでに知識は十分に吸収してきている。これからは、いよいよ経営実装の時である。
田上英樹◎地経学研究所主任客員研究員。専門は経済安全保障。1992年総合商社へ入社。審査事業、環リーリスク分析、事業戦略部門で活躍。2006年から同社シンクタンクにて全事業の業界分析業務に従事。21年からは経済安全保障担当に。特にバリューチェーン分析を専門としている。24年より現職。


