経済・社会

2026.08.28 16:15

「よい企業」とは何か━━オーセンティシティだけで社会は変わるのか|社会イノベーションの最先端の教養 第7回

Arslan Haider - stock.adobe.com

こうした疑念は、企業が社会課題について語る機会が増えるほど生まれやすい。環境を大切にすると宣言している企業の事業は、本当に環境負荷を減らしているのか。女性の活躍を訴える企業で、意思決定を担う女性はどれくらいいるのか。人種差別への反対を表明した企業は、その後、採用や人事、取引の仕組みを実際に変えたのか。記事では、これを「真正性(オーセンティシティ:Authenticity)」という言葉で説明している。掲げる価値観と、実際の行動が一致しているかということだ。

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ここには、これまで企業の社会的責任を考えるときにも繰り返されてきた問題がある。社会への責任が、本業の「外側」に置かれてしまうことだ。寄付をする。社員がボランティアに参加する。環境キャンペーンを行う。社会課題をテーマにした広告を出す。もちろん、どれも意味のある活動になりうる。しかしその一方で、本業そのものが社会にどんな影響を与えているのかが、十分に問われないこともある。社会貢献活動には熱心でも、サプライチェーンでは低賃金労働に依存しているかもしれない。環境保全に寄付しながら、本業では大量の温室効果ガスを排出しているかもしれない。多様性を掲げながら、社内の昇進や意思決定の構造は変わっていないかもしれない。SSIRの記事は、国際女性デーを宣伝しながら、サプライチェーンで女性労働者を搾取する企業や、社会運動が盛り上がった時期だけ広告に多様な人々を登場させ、その後すぐ元に戻った企業の例も挙げている。

ここまで考えると、「オーセンティックか(社会への姿勢が本物か)」という問いは、企業が何を発信しているかを評価するためだけのものではない。むしろ、本業そのものを見るための問いになる。どの商品をつくるのか。誰から調達するのか。どこに投資するのか。誰を雇い、誰が意思決定に参加するのか。利益を生む過程で、誰が便益を受け、誰がコストを負っているのか。企業の社会への姿勢は、CSR部門の活動だけではなく、こうした日々の経営判断のなかに表れる。そう考えると、「社会課題に積極的な企業」と「本業に集中する企業」という区別そのものも、少し怪しくなってくる。本業は、社会の外側にあるわけではないからだ。

「本物の企業」を選べば社会は変わるのか

では、ここまでの議論から、「よい企業」の条件は見えてきたのだろうか。掲げる価値観と実際の行動が一致し、本業そのものを通じて社会への責任を引き受ける企業。そして私たち消費者が、そうした企業の商品を選ぶ。そうすれば社会は少しずつよくなっていく——。話は、それほど単純なのだろうか。

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SSIRの記事「消費者はサステナビリティにお金を払うのか」は、持続可能性を重視した商品に消費者がどこまでお金を払うのかを検討している。環境や社会に配慮した商品を買いたいという人は多い。実際、サステナビリティを打ち出した商品が成長していることを示す研究もある。しかし、意識と行動は必ずしも一致しない。店頭で実際に商品を選ぶときには、価格、品質、便利さ、ブランドへの信頼など、さまざまな条件が入ってくる。環境にいいという理由だけで、高い商品をいつも選べるわけでもない。いわゆる「意図と行動のギャップ」である。

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