2026.09.09 15:30

旅と体験が拓く「意味の取引」とナラティブ・エンジニアリング

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日本には世界が求める価値があり、足りないのはそれを見出し、編集し、届ける力、収益にする力だといわれる。その課題は、どうしたら解決できるのか。うまくいっている事例とは何か。

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地域の価値デザインに取り組む価値デザイナー / ナラティビストの渡邉賢一が説く。


「日本の次の基幹産業は何か」。それは間違いなく文化産業だろう。ここでいう文化は、芸術や伝統芸能だけではない。アニメ、ゲーム、食、工芸、祭り、職人の所作、地域の記憶、企業の哲学まで、人間の創造的・精神的活動から生まれる価値の総体である。文化は余暇でも、保護するだけの対象でもない。知財、体験、雇用、投資、外交を動かす経済基盤で、IP経済圏の源泉だ。

日本のコンテンツ海外売上は2024年に6.1兆円(内閣府)へと拡大し、半導体や鉄鋼を超えて自動車に次ぐ規模に成長した。訪日外国人旅行消費額は、25年に9.45兆円に。内閣府知財事務局が食の輸出や知財、ビューティ産業のサービス貿易を含めて試算した関連市場規模は、25年に27.1兆円に達し、政府は33年のKGIとして50兆円を掲げる。

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一方で、日本の国際サービス収支は年間3.39兆円の赤字(財務省「令和7年中 国際収支状況」)と課題を抱える。製造業の稼ぐ力が鈍化するなか、黒字を強く牽引するのがIPとインバウンドだ。世界へ広がる日本文化への共感は、多様な産業の市場性を広げ、国内外から成長投資を呼び込む触媒となっている。

ナラティブで循環を設計する

経済の重心は、モノや情報の取引から「意味」と「体験価値」の取引へ移り始めた。その社会で人は、機能や価格だけでなく、「なぜ存在するのか」「誰の未来を良くするのか」に共感し、選び、参加する。そこで必要なのは、規模を追う「Marketing of Scale」だけではない。一人ひとりとのつながりを追う「Marketing of Depth」の視点である。

象徴的なのがサンリオだ。同社はIPが顧客の人生に寄り添う時間を可視化し、25年3月期には「寄り添い時間」1136億時間、「夢中時間」5億時間など、売り上げだけでなく「意味の生涯価値」を計測。一方、比叡山延暦寺発の仏教スタートアップ「叡智」は、1200年受け継いだ精進料理の思想を米由来の代替肉へ転換した。キャラクターも宗教文化も、共感や思想を現代の体験と事業に翻訳すれば、長期的な関係資産になる。

内閣府知財事務局が提唱する「新たなクールジャパン戦略」も、世界が求める価値として、Well-being(ウェルビーイング)、Sustainability(持続性)、Transformation(自己変容)、Authenticity(本質性)を挙げ、多様化、深化する日本ファンに呼応する。その市場をとらえるには、「ナラティブ・エンジニアリング」が必要だ。地域や企業に眠る文化資源を発見し、現代の社会課題と接続し、共感、参加、投資を生む物語へ編集する技術である。

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文=渡邉賢一

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