サイエンス

2026.08.29 18:00

1万Gの加速度で獲物を粉砕するモンハナシャコ、驚異の生体力学

stock.adobe.com

stock.adobe.com

海は、常識を覆すような生物であふれている。暗闇で光を放つ魚。パズルを解くタコ。熱水が噴き出す海底の亀裂の上を、滑るように移動する巻き貝──そして、この記事で紹介するのは、虹色に輝くモンハナシャコ(学名:Odontodactylus scyllarus)だ。爆発的な力のあるパンチを繰り出す甲殻類で、科学者はその威力を「22口径の弾丸」にたとえるほどだ。

「弾丸並み」とは、野生動物を追ったドラマチックなドキュメンタリー番組で耳にするような大げさな表現だと思うかもしれない。なにしろ、モンハナシャコは人間の手のひらに載るほど小さいのだ。しかし、弾丸のたとえは間違いではない。虹色にきらめく小さな甲殻の内側には、進化史上でも有数の高度な生体力学的兵器が隠されている。

この謎を解き明かそうとする研究者たちは、数十年前からモンハナシャコをスローモーションで撮影し、その打撃力を測定したり、パワーの源となっている解剖学的に優れた構造を詳細に分析したりしてきた。そうしてたどり着いた事実は、多くの人が思っているよりも奇妙だった。モンハナシャコがパンチを繰り出すと、周辺の水ではほんの一瞬、強烈な物理現象が起こるのだ。

進化生物学的な観点から、その不思議さについて解説していこう。

モンハナシャコのパンチの背景にある生体力学

シャコ目には、獲物の硬い殻を叩き割る打撃型(スマッシャー)のグループと、鋭いトゲで獲物を突き刺す刺撃型(スピアラー)のグループがある。モンハナシャコは、打撃型に属している(一般に食用にされるシャコ[Oratosquilla oratoria]は刺撃型)。

モンハナシャコは、獲物の硬い殻を砕くための、非常に強力な棍棒状の捕脚を持っている。この棍棒は、獲物を捕えるための脚につながっているが、普段はしっかり折りたたまれて、体の下に格納されている。装填されたバネのようなものだ。

ここで重要になってくるのが「装填された」という言葉だ。2004年に『Nature』で発表された有名な研究で説明されているように、モンハナシャコは、筋力だけであのパンチを繰り出すことはできない。水中では筋組織が急速に収縮できないため、研究者が目にするような猛スピードは出せないのだ。モンハナシャコはその代わりに、生体力学専門家が「ラッチ媒介ばね作動システム」と呼ぶ仕組みを頼りにしている。

簡単に言うとモンハナシャコは、特殊な捕脚の内側に弾性エネルギーを蓄えている。捕脚を掛け金(ラッチ)で固定しつつ、筋肉が張力をかけ続けているのだ。そして、ラッチが外された瞬間、蓄えられていた弾性エネルギーが、圧縮されていたバネのように解き放たれる。

その結果、驚くべきことが起きる。先述した2004年の研究論文で著者らが打撃スピードを測定したところ、秒速14mから23m(時速53kmから83km)に達し、加速度は1万Gを超えていたのだ。体長17cmほどの小さな生き物にとっては、並外れた数値と言って過言ではない。

次ページ > モンハナシャコのパンチが破壊的威力を持つ理由

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事