ラグジュアリー旅行業界はこの1年、同じ課題をさまざまな角度から分析してきた。それは、富裕層の旅行者が「何を買えるか」よりも、「何を感じ、何を学び、どう成長できるか」に関心を移しつつあるという点だ。
その変化は説明しやすく、数値化すらできるかもしれないが、ビジネスへと転換するのははるかに難しい。
マリオット・インターナショナル、ヒルトン、アメリカン・エキスプレスなどのレポートは一様に、つながり、文化への没入、感情的な見返り、個人の成長、そしてより有意義な時間の使い方を求める旅行者の姿を指し示している。
プリファード ホテルズ&リゾーツによる2025年のレポートはさらに踏み込み、ソーシャルメディアが生み出した「模倣文化(デュープ・カルチャー)」と、その結果として生じるラグジュアリーの「均質化(ベージュ化)」を「旅行業界最大の脅威」と表現している。
これまで業界が限界に挑戦するアプローチといえば、より優れたスパ、アクセスが困難なサファリキャンプ(賛否両論はあるものの)、シェフが同行する市場ツアー、あるいは特別にプライベートな空間へのアクセス提供といったものが大半であった。
それらは確かに価値があり、楽しく、適切な旅行者にとっては精神的な体験にもなり得る。しかし、データが浮き彫りにし、業界がこれまで明確な答えを避けてきた問いはこれだ。
「消費」が目的ではないとき、「ラグジュアリー」はどのような姿をとるのか。
その答えの1つとなり得るのが、ギーティカ・アグラワルが設立したニューヨーク拠点のプラットフォーム「Vacation With An Artist」、通称VAWAAだ。このサービスは、世界中のマスターアーティストのアトリエに旅行者を送り込み、数日間にわたるクリエイティブな「徒弟体験(アプレンティスシップ)」を提供する。
午後の時間を埋めるだけのアクティビティを提供するのではなく、同社は「知識の伝承」そのものが、今後のラグジュアリー旅行の主たる形態になると確信している。
「AIの普及、スクリーンの見すぎによる疲労、孤独感といったさまざまな危機の中で、世界はアナログへと向かっている」とアグラワル氏はビデオ通話で語った。「すべての流れは、人々が現実世界へと飛び出し、スクリーンの後ろで受動的に過ごすのではなく、より能動的でありたいと願う方向へと動いている」
この主張を裏付ける議論の1つが、2025年10月にエコノミスト誌が掲載した記事にある。要約すると、「モノ(物品)」と「体験」の二極化が進んでいる。富裕層は消費を止めたわけではないが、以前よりも価値に対して敏感になっているという。
特に個人の高級ブランド品が買い控えの対象となっている一方で、高級ホテルや上級クラスの航空便、一生に一度の旅行などには、依然として資金が流れ込んでいる。さらに、あらゆる社会経済的層において旅行への支出が増加している。
同記事はマッキンゼーを引用し、ラグジュアリー・ホスピタリティへの世界支出は2023年の2390億ドル(約38兆円)から2028年には3900億ドル(約62兆円)超へ増加すると見込まれていると報じた。
しかし同時に、ラグジュアリー旅行が、アスピレーショナル(憧れを抱く)消費者を追い求めたり、過剰な開発を行ったり、あるいは顧客に「ぼったくられている」と感じさせるほどの値上げを行ったりすることで、ファッション業界と同じ過ちを繰り返す恐れがあると警告している。
高級ブランド品がその輝きを失った原因が、値上げのペースが創造性や顧客の感じる価値の向上を上回ってしまったことにあるならば、ラグジュアリー旅行も単に客室料金を吊り上げてそれを「変革(トランスフォーメーション)」と呼ぶべきではない。むしろ、この警告に耳を傾けるべきだ。
旅行者が求めているのは、より長く心に残るもの、特に形のない無形のものである。
マリオット・インターナショナルのラグジュアリーグループは2025年12月、この変化を「High Life Worth(人生の価値の高まり)」への移行であると表現した。同グループはあるレポートを引用して、「富裕層の84%が旅行は自分という人間を形作ってきたと答え、88%がステータスを所有物ではなく知識と尊敬によって定義し、94%が深い文化的没入と学びをもたらす旅行を求めている」と指摘している。
アメリカン・エキスプレスの2026年グローバル・トラベル・トレンド・レポートによると、調査対象となったミレニアル世代とZ世代の旅行者の79%が、2026年に現地のワークショップや目的地ならではのアクティビティを求める傾向にあり、世界全体の回答者の76%が、旅行中に身につけたスキルは物質的な土産よりも長く自分の中に残ると考えている。
これこそがVAWAAのような企業にとっての好機であり、Airbnb(エアビーアンドビー)が「体験」に回帰している理由でもある。
Airbnbは2025年5月、宿泊施設の枠を超えた幅広い取り組みの一環として「体験」サービスを再始動し、伝統的なハブ&スポークモデルに沿ったサービス追加とアプリの刷新を行った。
Airbnbのブライアン・チェスキーCEOは、プレスリリースの中で「今日の旅行アクティビティは、訪れている都市との本当のつながりを提供していない」と記した。「都市を探索する最も本質的な方法は、その街を最もよく知る地元の人々と共に過ごすことだ」
同社は5月にこの方向性をさらに推し進め、日常のサービスやFIFAワールドカップの体験まで含めるようにした。この動きに対しては一定の難色もあったようで、同社はトリップアドバイザーおよびビアター(Viator)との提携を発表している。
Airbnbのこの動きが示しているのは、さまざまな旅行プラットフォームや企業が旅行のプロセス全体への関与を強めようとするなかで、もはや宿泊施設を提供するだけでは不十分だということだ。
対照的に、VAWAAはよりニッチで、競合から模倣されにくい地位を狙っている。
Airbnbの「体験」が、主に現地へのアクセス、利便性、選択肢の幅広さを軸に構築されているのに対し、VAWAAのアプローチが重視するのは「深さ」だ。
プログラムは通常4〜6日間で、多くはマンツーマンで行われ、通常の旅行ルートでは出会うことが難しい知識を持つアーティストを中心に展開される。
同社の投資プラットフォーム「Wefunder」のページ(現在更新中)によると、VAWAAには42カ国に210人以上のアーティストが在籍し(さらに1200人以上がウェイトリストに登録)、現実世界でのクリエイティブな交流時間は3万4000時間を超える。また、ネットプロモータースコア(NPS)は84、アーティストの継続率は98%を誇り、2026年の現時点における前年比オーガニック成長率は、マーケティングを行わない状態で50.4%に達しているという。
唯一のネックは、予約を希望したゲストの46%が、希望する場所や日程で、特定の芸術分野の受け入れ枠が不足していたために予約できなかったことだ。
これらは同社自身が発表した数値であるため、その点を考慮する必要はあるが、このボトルネックは確固たる需要が存在することを示している。そして今後の課題は、細分化された市場において、その需要と信頼できる供給をいかにマッチングさせるかにある。
しかしそれ以上に、アグラワル氏は、現在のアート界がギャラリー、フェア、マーケットプレイス、完成品の販売を支援するプラットフォームなど、大半が商業を中心に構築されていると指摘する。VAWAAの最終的なゴールは、製品そのものではなく、アーティストの持つ知識を付加価値にすることだ。
「アートの世界は非常に広大だが、すべてが商業を中心に回っている」とアグラワル氏は語る。「アート作品を販売することばかりに焦点が当てられている。Etsy、Amazon、展覧会、アートフェア、ArtsyやSaatchi Artなど、すべてはアーティストが作品を作り、それを売る仕組みだ。しかし、アーティストが知識を共有するためのインフラは存在しない。私たちが構築しているのはそれだ。すなわち、アーティストのための知識経済(ナレッジエコノミー)である」
もし文化やつながりが、富裕層の旅行者や若い世代が本当に求めている原動力であるならば、職人の技術や歴史的知識を、それを支える希少で経済的価値のある基盤として扱うことは極めて合理的だ。
そして、「希少性」と「高い価値」ほど「ラグジュアリー」を物語るものがほかにあるだろうか。
クリエイティブな旅行におけるリスクは、ラグジュアリー旅行やホスピタリティ業界全体が直面しているリスクと同じだ。市場が「人々は『意味』にお金を払う」と気づいた瞬間、意味はあっという間に単なるラベルと化す。あるいは最悪の場合、ひどい結末をもたらすコモディティ(日用品)に成り下がる。VAWAAがその罠を回避できるかどうかが重要な問いとなる。
さらに、「トランスフォーメーショナル・トラベル(自己変革をもたらす旅行)」という言葉は、パンフレットやプレスリリースに載せるのは簡単だ。この用語の使用はこの1年で急増し、旅行メディアでは「体験型」や「エモーショナル」といった言葉と同じくらい一般的になっている。
それにもかかわらず、体験そのものを価値あるものにする「人」「場所」「実践」がなければ、創造性を提供することははるかに難しい。アグラワル氏は、VAWAAに登録されているアーティストの多くを自ら直接審査している。
その強みがアーティストからの信頼に依存している以上、規模の拡大(スケーリング)は同社単体にとどまらない業界共通の課題だ。データが示すものがあるとすれば、それは「より有意義な旅行」が世代を超えた共通の関心事であるということだ。
アメリカン・エキスプレスのレポートでは、ミレニアル世代とZ世代の回答者の83%が、人気の観光スポットよりも「ユニークで本物の体験」を優先し、82%が「良いストーリー(話のネタ)になるのであれば、日常からかけ離れたことをしてみたい」と考えていることも明らかになった。
若年層の富裕層は、お金、ステータス、そして旅行全般に対して従来とは異なる価値観を持ちながら、自らの資産を手にするようになっている。彼らももちろん美しさ、洗練、特別感(アクセス)を重視するが、同時にストーリー、アイデンティティ、自己開発、そして写真や「インスタ映え」を超えて、旅行が自分に何をもたらしてくれるかも重視している。
その傾向だけで彼らを「純粋主義者」と呼ぶことはできないかもしれないが、彼らが旅行の意味を見定めると同時に、かつてないほど高い質を旅行に求める消費者であることは間違いない。
業界はすでに、少なくとも独自の方法でこれに応え始めている。
高級ブランドは、「スロートラベル」や豪華列車、ブランド冠のビーチクラブ、ホテル、ヨット事業へと進出しており、旅行アドバイザーには単に「最良の客室」だけでなく、「旅をすべき最良の理由」を見つけることが求められている。ヒルトンの2026年トレンドレポートにいたっては、「Whycation(目的のある休暇)」を旅行の新たな出発点と位置づけている。
2026年の多くのラグジュアリー旅行レポートが、富裕層旅行者にとっての優先事項としてつながり、意味、感情的な見返りを挙げている。しかし、より難しいのは、それらの概念が現実世界で実際にどのような姿をとるのかという点だ。
無形のものをより具体化するVAWAAの提案は、まさにその問いに対する答えになるかもしれない。なぜなら、その商品は単なる「つながり」ではなく、何十年もその道を極めてきた職人や作家と数日間を共に過ごすことだからだ。それは、若き旅行者の人格形成期に影響を与え、あるいは決定づけさえするかもしれないスキル、記憶、または新しい視野の始まりとなる。
おそらくラグジュアリー旅行の次のフェーズは、特別感のあるアクセス(利用権)よりも、職人技への弟子入り(アプレンティスシップ)に近くなり、希少なものとは、スイートルームや高級バッグではなく、大量生産できない「知識の追究と獲得」になるだろう。
それを文化資本、あるいは既製品としては買えない「旅行者が何を学び、感じ、何になれるか」と呼ぶこともできるだろう。そしてそれこそが、クリエイティブな旅行に最大の好機が訪れる理由だ。すなわち、旅の「目的(objective)」から「モノ(object)」を取り除くことによって。



