米国時間8月21日、米国とカナダの貿易交渉が突然決裂した。両政府が冷静さを取り戻さなければ、決裂の影響は国境をまたぐ原油取引にまで及び、双方に厳しい結果をもたらしかねない。はっきりしているのは、エネルギー安全保障を健全な水準に保つために、米国もカナダも原油と天然ガス、電力を国境越しに大量にやりとりし続けなければならないという点だ。
カナダ産原油は日量400万バレル、米国が輸入する原油の63%
天然ガスと電力をめぐる取引も両国にとって重要だが、原油については、国境をまたぐ取引を健全に保つことが絶対に欠かせない。カナダ産原油は週7日、年間365日にわたって日量400万バレルに達する規模で米国へ流れ込み、2025年には米国が輸入した原油の63%を占めた。この日量400万バレルは、カナダにとっても原油輸出の大半にあたる。米国以外に、これだけの量をすぐ引き取れる輸出先はない。
アルバータ産重質油に合わせ、米国の製油所は造られてきた
米国へ流れ込むカナダ産原油の大半は、アルバータ州のオイルサンドから採れる重質サワー原油、つまり比重が重く硫黄分を多く含む原油である。この重質油は、産地を替えれば済むような置き換えの利く商品ではない。米国にある製油所が、テキサス州西部からニューメキシコ州東部に広がるパーミアン盆地や、他の輸出国から届く軽質油へ短期間で切り替えることはできない。米国にある精製設備、とりわけ中西部とメキシコ湾岸に並ぶ複雑な装置は、まさに重質サワー原油を処理するために、数十年をかけて意図的に組み上げられてきた。カナダ産重質原油は米国産の軽質油と混ぜ合わされ、ガソリン、ディーゼル、ジェット燃料といった石油製品となって、米国経済を動かし続けている。
カナダ産が止まれば稼働率は落ち、ガソリン価格は跳ね上がる
カナダ産原油をすぐに確保できなくなれば、米国の製油所は稼働率を大きく落とす。原油1バレルから取り出せる製品の量も減る。給油所で払うガソリンとディーゼルの価格は、すでに高い水準にあるところからさらに跳ね上がる。
世界の石油供給が逼迫している現状は、事態をいっそう厄介にする。余剰生産能力は限られ、ベネズエラや中東といった代替の調達先は、それぞれ地政学上と物流上の障害を抱える。封鎖の危険がある海峡を避けて大洋を遠回りすれば、輸送コストも脆弱性も増す。現在、原油を仕入れてディーゼルとして売る際の利幅は大きい。米国の製油所は利幅を取りに行くため高い稼働率を保っており、失われたカナダ産数量を短期間で埋め合わせることはほぼ不可能である。



