こうした変化は、企業がリーダー人材を評価する方法にも影響を及ぼしている。近年、エグゼクティブ・サーチやリーダーシップ・アドバイザリーの現場では、純粋な技術的専門性や従来型のリーダーシップ能力だけでなく、AIを経営戦略に活かすための戦略的リテラシーを重視する傾向が強まっている。企業が求めているのは、AIを事業戦略、人材戦略、ガバナンス、さらには組織変革と結び付けて構想・推進できるリーダーである。
これは、日本の大手グローバル企業において特に重要である。グローバルで蓄積されたAI活用の知見や実践を、日本のステークホルダーの期待や組織文化を深く理解し、その両者を橋渡しできるバイリンガル人材への需要が高まっているためだ。多くの企業において課題となるのは、AIという新たなテクノロジーを導入すること自体ではなく、むしろ、合意形成を重視する意思決定プロセス、組織の継続性を重んじる文化、そして長年にわたって培われてきた業務運営の仕組みや企業文化の中に、AIをいかに組み込み、定着させるかという点にある。
そうした中で、CHRO(最高人事責任者)の役割はこれまで以上に重要性を増している。AIの導入が加速するにつれて、人材変革はもはやテクノロジー部門だけの課題ではなく、経営戦略の中核をなす戦略課題となりつつあるからだ。大規模なリスキリングの推進、スキルベースの人材マネジメント、人材の社内流動化の促進、そして組織・人員配置の再設計は、企業の長期的な組織競争力を左右する重要な論点になっている。
最終的に、AIは日本企業の組織のあり方を大きく変えていくことになる。職務や役割は進化し、人材構成も変化するとともに、リーダーやマネジャーに求められる能力やスキルの範囲も今後さらに広がっていくであろう。しかしどの企業が成功するかを決定づけるのは、テクノロジーそのものではない。AIをリーダーシップ、企業文化、組織能力の育成プロセスにどれだけ効果的に組み込み、持続的な変化に適応できる組織へ昇華できるかである。 そのカギは、日本企業の強みとして培われてきた「信頼」「品質」、そして組織としての一体感を維持できるかどうかにある。
今後10年間において競争優位を決めるのは、どの企業が最も早くAIを導入するかではなく、AIをリーダーシップ、人材・組織文化、そして組織能力の育成・強化にどれだけ効果的に組み込み、それを持続的な競争力へと転換できるかによって決まる。

トム・モナハン(Tom Monahan)
米エグゼクティブサーチ(経営幹部人材紹介)およびリーダーシップ・アドバイザリー企業「Heidrick & Struggles(ハイドリック&ストラグルズ)」のCEO(最高経営責任者)。「人と組織のパフォーマンス向上」への強い情熱を原動力に、インパクトのあるリーダーの発掘・育成・支援に取り組んでいる。長年にわたりテクノロジー、データ、サービス分野において革新的な企業の経営と成長を牽引してきたほか、ハイドリック&ストラグルズのクライアントとして培った経験を経て現職に。これまでに米DeVry大学のCEOやCEBの経営トップを歴任し、現在はTransUnionの取締役も務める。


