「後継者不在」。日本の中堅・中小企業の経営者を取材すると、こうした悩みが各所から聞かれる。全国の後継者不在率は帝国データバンクの調査で7年連続の改善が続いているものの、なお約半数に上り、小規模企業や特定の地域ではとりわけ高水準だ。日本企業の大多数を占める中堅・中小企業にとって、この問題は一企業の人事にとどまらず、地域経済や雇用の持続性にも関わる構造的なテーマである。
人口減少や激変する市場環境のなか、これからの時代を生き抜くために、日本の経営トップにはどのような資質が求められているのだろうか? 本稿では、世界有数のエグゼクティブサーチ・リーダーシップアドバイザリー企業である「Heidrick & Struggles(ハイドリック&ストラグルズ)」のCEOトム・モナハン氏が、これからの経営体制移行のあり方を提言する。サクセッションをガバナンスの基盤とし、次の10年を勝ち抜く競争力を確保するために、モナハンCEOが考える「次世代のリーダーシップ」とは。
日本企業では長らく、経営トップの継承は社内で静かに進めるものと考えられてきた。年功序列や信頼関係、組織の暗黙知に支えられ、外から見えにくいかたちで整えられてきた。これは日本企業の強みの一つでもあった。しかし、その前提はいま大きく揺らいでいる。人口減少によって人材基盤は縮小し、グローバル競争は激しさを増し、デジタル変革は経営トップに求められる資質そのものを変えつつある。もはや「CEOサクセッション」は人事部門だけで完結するテーマではない。企業の持続性と競争力を左右する、取締役会の重要課題である。
その深刻さは、すでに数字にも表れている。2025年に実施された東京商工リサーチによる調査では、約17万社を対象とした分析の結果、日本企業の62.6%が後継者不在であることが明らかになった。しかも、これは一部の高齢オーナー企業だけの問題ではない。60代の経営者においても約半数が後継者を決めておらず、70代、80代でも不在率は高い水準にある。事業承継には十分な準備期間が必要であり、後継者不在はそのまま廃業リスクに直結する。日本の後継者問題は、もはや各企業固有の事情にとどまらず、経済全体に関わる構造課題となっている。
この問題をさらに深刻にしているのが、日本の人口減少と高齢化だ。OECD(経済協力開発機構)によれば 、日本の生産年齢人口はピーク時の1995年の8730万人から、2024年には7370万人へと減少した。今後も2060年に向けて31%という大幅な縮小が見込まれている。人手不足は一過性のものではなく、産業全体に広がる構造的な現実となっている。総労働力が細るなかで、経営人材の市場はさらに狭まっていく。しかも、企業が求めているのは従来型の「管理者」ではない。変化の激しい時代において、戦略、組織、テクノロジー、グローバル対応を横断しながら経営を牽引できるリーダーである。候補者の絶対数は減る一方で、求められる水準は高まり続けている。



