経営・戦略

2026.08.28 14:15

日本企業が早急に取り組むべき「後継者不在」という経営リスク

Moor Studios / Getty Images

この視点が重要になるのは、経営人材市場の前提そのものが変わっているからだ。人口の高齢化により人材の流動性が低下し、必要なタイミングで必要な人材を確保しにくくしている。一方で、終身雇用の規範がなお根強く残るなかでも、経営人材の流動性は徐々に高まり、優秀な人材ほど複数の選択肢をもつ時代になった。加えて、トヨタ自動車や資生堂を筆頭とした日本企業の海外展開が進むなか、国内外の投資家、顧客、取引先、規制当局と向き合える、バイリンガルでグローバル志向を備えたリーダーへの需要は高まっている。さらに、こうした市場環境の変化に加え、DXやAI(人工知能)導入の進展もリーダーに求められる要件を大きくかえつつある。もはや機能別の専門性だけでは十分ではなく、現場への理解、変革を実行する力、異文化対応力、そしてテクノロジーを経営に結びつける力を兼ね備えた、ハイブリッド型のリーダーが求められている。

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取締役会がいま優先して取り組むべきことは、単に次の後継者候補を見極めることではない。次の時代のリーダーに何が求められるのか、その要件を明確に定義することである。日本企業は今後、国内固有の期待に応えると同時に、グローバル市場への対応を一段と進めていかなければならない。その意味で、異なる文化や価値観をまたいで意思決定し、関係者を束ねる力が可欠だ。

また、従業員、投資家、取引先を一貫した長期的方向性のもとに結集するという点で、パーパス(企業の存在意義)に根差したリーダーシップも重要となる。さらに、デジタルとAIに関するリーダーシップは決定的に重要である。変革を現場任せにはできない以上、経営の最上位層が自ら理解し、主導し、支えていく必要があるからだ。これらは見栄えのよい付加的な資質ではない。これからの日本企業にとって、リーダーに求められる実務上の必須要件である。

日本の後継者危機は、静かに進行している。しかし、静かに進んでいるからこそ、見過ごしてはならない。問題が表面化してから動くのでは遅い。これからの取締役会に求められるのは、サクセッションをガバナンスの基盤として整え、エグゼクティブサーチを戦略的機能として活用し、数年先を見据えて経営リーダーを育成・準備していく姿勢である。次の10年、日本企業の競争力を分けるのは、危機の後に誰を据えるかではない。危機の前に、どれだけ本気で次のリーダーを構想し、準備できていたかである。

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トム・モナハン(Tom Monahan)
米エグゼクティブサーチ(経営幹部人材紹介)およびリーダーシップ・アドバイザリー企業「Heidrick & Struggles(ハイドリック&ストラグルズ)」のCEO(最高経営責任者)。「人と組織のパフォーマンス向上」への強い情熱を原動力に、インパクトのあるリーダーの発掘・育成・支援に取り組んでいる。長年にわたりテクノロジー、データ、サービス分野において革新的な企業の経営と成長を牽引してきたほか、ハイドリック&ストラグルズのクライアントとして培った経験を経て現職に。これまでに米DeVry大学のCEOやCEBの経営トップを歴任し、現在はTransUnionの取締役も務める。

文 = トム・モナハン

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