「気候変動への対応の必要性は、AOCの規則が変化するスピードをはるかに上回っている。2003年の歴史的な熱波は、最初の気候変動の兆候を感じてから、2010年には研究プロジェクトを立ち上げ、気候変動がブドウ樹や土壌に与える影響を客観的に検証してきた。樹冠管理、藁によるマルチング、日除け、そして深刻な水分ストレスが生じた際の水分の補充(灌漑)など、さまざまな試験を実施。その結果、これまでブドウ栽培において一定のメリットがあると考えられてきた水分ストレスも、過度になればブドウ樹に深刻な悪影響を及ぼすことが明らかになった」
そして15年にわたる研究と実証を経て、2025年、極端な夏の気候を予測し、春の段階で具体的な対応に踏み切った。過去10年間の試験によって有効性が確認された技術を導入する一方、その一部がアペラシオンの規則では認められていなかったため、ラフルールはアペラシオンを名乗らないことを選択したのだ。
重要なのは、ラフルールがポムロールから離れたわけではないということ。自らを「何よりもまず農家」と言う彼らは、「これまで以上にポムロールに深く根ざし、この村のブドウ栽培の将来に全力を尽くす」と明言している。今回の決断によって、ラフルールはその特徴的な個性と味わいを守りながらワイン造りを続け、この伝説的な畑を未来へ引き継ごうとしている。そして、自分たちの経験に基づき、アペラシオン制度そのものがより柔軟になる必要があるという具体的な提言も行った。
灌漑を含む対応については、水を与えることでテロワールの表現が変わるのではないかという意見もあるが、オムリ氏は、「必要な場所に、必要な時に、必要最小限のごく少量だけを与え、水分ストレスを解消する」と説明する。ブドウ畑に設置されたパイプによる一般的な灌漑とは異なり、ラフル―ルでの水分補充は手作業でおこなわれ、また特に対象となるのは、水はけが良く、保水力の乏しい砂利質土壌だという。
「テロワールは変わらない。しかし、私たちは変わらなければならない」とオムリ氏。
そのようななか迎えた2026年春のプリムール(参考)は、ラフルールがアペラシオンを離脱してから初めての2025年ヴィンテージが評価される機会となった。批評家たちからは引き続き非常に高い評価が寄せられ、筆者自身もプリムールで数々の2025年ヴィンテージを試飲したが、ラフルールのワインは、まぎれもなくトップクラスだった。

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
連載記事一覧はこちら>>


