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2026.08.28 11:00

未来を見据え、決断する力とは。東郷記念館でリーダーたちが語ったAI時代の経営

AIの台頭により、企業経営の前提は大きく揺らいでいる。

既存業務を効率化するための技術としてAIを捉えるのか。それとも、事業、組織、人材、データのあり方そのものを見直す契機と捉えるのか。いま経営者には、これまでの延長線上にはない判断が求められている。

Forbes JAPANが主催し、IBMが協賛する、文化体験×AIラウンドテーブルシリーズ「GO Next. | Leaders’ Board -羅針-」第5回で行われた対話を、抜粋してお届けする。


東郷平八郎ゆかりの地で考える、AI時代のリーダーに必要な「大局と決断」

東京・原宿に位置する東郷記念館。ここは、日露戦争において連合艦隊を率い、国家の命運を左右する戦いで指揮を執った東郷平八郎を祀る東郷神社の境内に建つ施設である。

東郷神社は1940年に創建され、戦災による焼失を経て1964年に再建。その後、1969年には神前結婚式や披露宴の場として東郷記念館が建設され、2024年には耐震補強と改修を経て新たな姿へと生まれ変わった。

歴史の転換点において大きな決断を担ったリーダーの名を冠するこの場所で、Forbes JAPANが主催し、IBMが協賛するクローズドな対話形式の双方向プログラム「GO Next. | Leaders’ Board -羅針-」の最終回が開催された。

今回のテーマは、「Foresight and Decision(大局と決断)」。

未来を見通し、重要な局面で最良の決断を下すこと。それは、AIによって事業環境が大きく変化する現在の経営者にも通じるテーマである。

当日は、金融、製造、不動産、通信、エネルギーなど、さまざまな業界を率いるエグゼクティブ層が東郷記念館に集結。AI時代に企業が進むべき道を見極めるために、経営者はいかなる視座を持つべきなのか。これからの経営判断について議論を深めた。

AI時代にこそ高まる「意思決定」の価値

まずは、AI時代における経営判断の現在地を捉えるためのトークセッションが行われた。帝人グループ執行役員 デジタル・情報システム管掌の舩生幸宏、一般社団法人日本CTO協会理事/GENDA執行役員CTOの梶原大輔が登壇。Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香がモデレーターを務め、日本企業におけるAI活用の課題や、経営トップに求められる判断について議論した。

最初のテーマは、「AI活用において日本企業が直面する課題」について。AI技術そのものは急速に進化している。一方で、多くの企業では、データやシステムが部門ごとに分断され、AIを十分に活用するための環境整備が進んでいないという。

今、どのような経営変革が問われているのか。舩生は「AI導入が目的になってしまうと、本来目指すべき変革にはつながらない」と、データ基盤や業務プロセスの見直しの重要性を語った。

「まずは、自社が何を実現したいのか、そのためにどの領域を変えるべきなのかを明確にする必要があります」(舩生)

一方、梶原は海外企業との比較から、日本企業に必要な視点について言及。AIを有効活用できている企業とそうでない企業の差は、最新技術を導入しているかどうかではないと述べる。

「これから重要になるのは、AIを導入するだけにとどまらず、使いこなせる組織になること。AIを前提として、事業や業務の設計そのものを変えられるかどうかが問われています」(梶原)

AIエージェントの登場により、これまで人が担っていた情報収集や分析、業務処理のプロセス自体が変わっていく。その中で経営者に求められるのは、「AI時代に、どのような会社や事業をつくるのか」という方向性を示すことだ。

また、AIは大量の情報を処理し、一定の答えを導き出すことに長けている。しかし、経営においては、正解が一つではない状況で決断しなければならない場面も多い。梶原はAI時代における人間の役割について、「何を実現したいのかという意思を持つこと」がより重要になると指摘した。

「AIは選択肢を広げることはできますが、その中から何を選び、どこへ向かうのかを決めるのは人間です。経営者には、未来の姿を描き、意思決定する力がこれまで以上に求められると思います」(梶原)

舩生は、AI活用において人間に求められるのは、新たな価値創出につなげる視点だと語る。

「業務効率化だけを目的にすると、空いた時間に別の業務を埋めるだけになってしまう可能性があります。大切なのは、その先で何の付加価値を生み出すのかを考えることです」(舩生)

AIによって選択肢や実行手段が広がるほど、経営者には意思を明確にし、判断する力が問われるようになる。どの道を選び、未来を形づくるのかという人間の決断の価値は、ますます高まっているのだ。

経営層たちが議論した、AI時代の「意思決定」のあり方

トークセッションに続いて行われたワークショップでは、参加者が複数のグループに分かれ、自社のAI活用における課題や可能性について議論を展開。それぞれの業界や企業特有の課題が上がった一方で、共通するテーマも多い。

一つ目は、「AIによって何を変え、何を残すのか」という判断だ。

AI活用というと、既存業務の効率化に目が向きがちだ。しかし、あるグループでは、見直すべき対象は個別業務ではなく、事業そのものではないかという議論が交わされた。 例えば、SI(システムインテグレーション)事業では、AIによってこれまで提供してきた上流工程の価値が変化する可能性が指摘され、既存のビジネスモデルを前提にするのではなく、自社が今後どのような価値を提供するのかを問い直す必要性が語られた。

また、あるグループでは、効率化を進めることによって、企業が本来持つ価値まで失われる可能性があるという指摘があった。例えば、サービス業では、受付などの業務をAIによって効率化することは可能だが、それによって顧客体験や企業らしさが失われると本末転倒になる。AI導入では、単に「できること」ではなく、「やるべきこと」を見極める必要があるという。

さらに、AI時代においては、企業が持つデータをどのように扱うかも重要な論点になる。あるグループでは、AI活用を進めるために積極的にデータ共有を進めているが、自社独自の強みとなる情報は守る必要があるという意見が出た。何を共通基盤に投入し、何を企業固有の資産として保持するのか。その線引きの難しさについて意見交換が行われた。

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二つ目は、AI時代における「人間の価値」について。

複数のグループで共通して語られたのは、経験や感性、相手への理解といった、単純なデータ化が難しい領域の重要性だ。あるグループでは、AIには「空気を読む」「忖度する」「共感する」といった能力に限界があり、企業活動における重要な判断には人間ならではの視点が必要だという議論が交わされた。

また、電力や保険など社会インフラに関わる領域では、過去の経験に基づく判断をどこまでAIに委ねることができるのかという問いも投げかけられた。安定供給や重大な意思決定においては、「人が最後の砦になる」という意識が強く、AI活用への期待と同時に、人間の判断をどう位置づけるかという課題が浮かび上がった。

人間かAIかという二者択一ではく、AIが得意とする領域、人間だからこそ担える領域を見極め、両者を組み合わせながら新たな価値創出につなげていくこと。その設計こそが、経営層に求められる役割の一つなのかもしれない。

IBMが推進する、AIを前提とした業務変革

ワークショップの後、日本IBM 執行役員兼技術理事 技術戦略本部統括の藤田一郎がAIエージェント時代における企業変革について解説した。

藤田は、1964年のメインフレーム、1993年のオープン・インターネット、そして現在のAIという約30年周期で起きてきた技術変革を振り返りながら、今回のAIの波は単なる新たなツールの登場ではなく、企業活動の前提そのものを変える大きな転換点であると説明した。

「これからの時代は、人がシステムを操作することを前提とした従来の仕組みから、AIが業務やシステムを利用することを前提としたアーキテクチャーへ移行していく。そのためには、個別業務へのAI導入だけではなく、業務プロセスや組織のあり方そのものを見直す視点が必要です」(藤田)

さらに、IBM自身を変革対象とする「Client Zero」の取り組みを紹介。IBMでは、自社の業務にAIを組み込み、人事、法務、営業などさまざまな領域で業務変革を進めている。この変革において重要なのは、AIを前提に業務プロセスを再設計し、人とAIがそれぞれの強みを発揮できる形へ変えていくことだ。さらに、AIによって生まれた余力や成果を次のAI活用へ再投資することで、継続的な変革サイクルを生み出していく。こうした活動は、AI導入を企業の成長エンジンとして位置づける考え方といえるだろう。

AI時代にどのような変革を進めるべきかを考えるうえで、IBMが実践する取り組みは、経営者にとって一つの示唆を与えるものとなった。

今回の東郷記念館での対話を通じて見えてきたのは、AI時代における経営判断の難しさと、その重要性だった。

AI技術そのものは急速に進化している。しかし、企業の未来を左右するのは、どの技術を導入するかだけではない。自社にとって残すべき価値は何か。変えるべき業務はどこなのか。AIによって生まれる余力を、次の成長にどうつなげるのか。

こうした問いに向き合い、自社が目指す姿を描くことこそ、経営層に求められる役割ではないだろうか。

東郷記念館という、歴史の中で大きな決断が刻まれてきた場所で行われた最後のラウンドテーブル。そこで交わされた議論は、AI時代の企業経営に必要な「羅針盤」を考える時間となった。


日本IBMが描くAIの成長戦略

https://www.ibm.com/jp-ja/campaign/ibm-and-ai-strategy

Promoted by IBM | photographs by Mizuaki Wakahara | text & edited by Hibiki Matsuyama(PlayceCUBE)

連載

GO Next. AI時代のIT投資を「技術検討」から「経営判断」へ