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2026.08.28 11:00

AI時代に我々は何を継承し、何を創造するのか?伝統の酒蔵でリーダーたちが語り合った日本の未来像

AIの台頭により、企業経営を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。

既存業務を効率化するための技術としてAIを捉えるのか。それとも、事業、組織、人材、データのあり方そのものを見直す契機と捉えるのか。いま経営者には、これまでの延長線上にはない判断が求められている。

Forbes JAPANが主催し、IBMが協賛する、文化体験×AIラウンドテーブルシリーズ「GO Next. | Leaders’ Board -羅針-」第4回で行われた対話を、抜粋してお届けする。


静かなる“江戸返り”の酒蔵で、歴史に思いを馳せる

栃木県さくら市にある酒蔵「仙禽(SENKIN)」は、江戸時代後期の1806年に創業し、220年の歴史を持つ。

7月の真夏日、静寂に包まれた酒蔵に、総合電機、航空、製薬、印刷、保険、金融など、日本を代表する企業のCxO・役員クラスのリーダーたちが集った。主にテクノロジーを担当する経営者・役員としてAI時代の舵取りを担う彼らは、歴史ある酒蔵に改革のヒントを見出そうとしていた。

Forbes JAPANが主催し、IBMが協賛するクローズドな対話形式の双方向プログラム、「GO Next. | Leaders’ Board -羅針-」。第4回のテーマは「Heritage and Innovation(継承と創造)」だ。

この日のプログラムは酒蔵見学からスタート。はじめに蔵元が、仙禽の歴史と現在の取り組みを紹介した。

「古くて新しいものづくり」をモットーとする仙禽は、継承と創造の両輪から成り立っている。米づくりをはじめ、酒造の各工程で伝統的な製法に回帰する「江戸返り」というコンセプト。乳酸菌を生かした独自の生酛(きもと)造り。業界の常識を破り、さまざまな料理と共に楽しむことを想定した、甘酸っぱい酒の開発。さらには「酒離れ」といった現在の酒類業界が抱える課題や、新たな挑戦について経営者の視点で語られ、参加者たちはそれぞれ真剣な表情で聞き入った。

醸造の季節を終えたばかりの酒蔵は静謐で、荘厳さが漂う。吉野杉を用いた大きな木桶が並ぶ部屋、麹の製造を行う麹室などを訪れた。全国に千を数える蔵元がある中で、「それぞれに製法を工夫しており、一つとして同じ麹はない」というオリジナリティについての談話には、業種を問わない普遍性があり、熱心に頷く参加者の姿も見られた。

国産AI戦略が推進する3つの領域と、更新されるリーダーの役割

続いて行われたトークセッションでは、シナモン(シナモンAI)の会長兼CSDO(チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー)の加治慶光が登壇。Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香と共に、日本企業とAIの現在地を概観した。

加治は、ビジネスAIソリューションで企業を支援するシナモンAIを率いつつ、日立製作所のシニアプリンシパル、鎌倉市スマートシティ推進担当参与を歴任するなど、AIを中心に新たな価値創造を推進する重要人物だ。

冒頭、谷本からAI時代における日本の立ち位置について問われると、3年前に東京大学の松尾豊教授が語った言葉を引用しつつ、目指すべき道を示した。

「松尾先生は“焦る必要はない。まずはトップ集団の最後尾に付けながら、いろんなものを試してみて、何が起こるかを3年かけて見定めることが重要だ”と仰っていた。そこから3年の月日をかけて政府は日本の立場を客観的に見定め、主に3つの領域で強みを発揮していこうと考えた」(加治)

その3つの領域とは、現実世界で物理的デバイスを動かす「フィジカルAI(物理AI)」。特定の業種・領域に特化した「バーティカルAI(垂直型AI)」。そして海外のAIにばかり依存せず、国産のAIをどう使うかという「ソブリンAI(主権AI)」だ。

政府が設置した「日本成長戦略会議」のメンバーでもある加治は、官民連携の取り組みとして国産のフィジカルAIプラットフォーム「ノエトラ」を紹介。AI時代には、一企業で取り組みを完結せず、国とも密に連携し、共に成長戦略を描く必要があると説いた。

続いて加治は、部署を超えて人材を集めた「CoE(センターオブエクセレンス)」の重要性に言及。日立製作所では、全社横断の組織としてAI-CoEを組成し、グループ全社のAIの使い方を見渡したうえで、適切に配分していく取り組みを行っている。

CoEが重要な理由は、部署やチームごとにAIの部分最適ばかりが進んでしまい、会社としての全体最適が進まないためだ。加治は「CoEをつくって、“己を知る”ところから始めた方がいい」と提案した。

トークセッションの後半では、参加者にも問いを投げかけながら、実際に企業がAI導入を進めるうえで何がボトルネックになっているのかについて議論が交わされた。

ある総合電機メーカーの参加者からは、「人間の働き方がボトルネックになっている」という意見が出た。自社の事例として、「当社は本体からスピンアウトした小さな会社なので、体制変更が容易で、開発から何からすべてを“AIファースト”に変えた結果、売上が3倍になった」と説明。AI自身がコーディングできるようになり、「AIがAIを生む」フェーズに入っていると述べた。

そのような状況を踏まえ、「人間が『これが欲しい』と言えるかどうか。ある種の欲望を人間が持てるかどうかが、新たな競争条件になる」と問題提起。加治もこの視点に同意し、AI時代に重要になるのはリーダーシップであることを強調。特に複数業種を持つ企業グループでは、AI活用の全体最適に向けて、強いリーダーシップが必要になると語った。

日本企業のリーダーたちが本音で語った、AI導入の壁と可能性

次に、参加者が3つのグループに分かれ、ワークショップを実施した。経営リーダー同士が顔を合わせ、お互いのAIの現在地や取り組みを知ることで、確信を深め、新たな示唆を得ることがワークショップの目的だ。

あるグループでは、現場におけるAI実装の現状について語り合った。経営層でありながら自らコーディングも手掛けるという参加者は、「AIによる効率化が進んでも、人間は空いた時間に新しいことに取り組むから、結局ひっきりなしの仕事が増えるだけ」という議論を受け、効率化の袋小路を抜けるカギは「本業そのものの再定義にある」と整理。AIを最大限に活用するためには、現場発想よりも、「これをやりたい」という明確な欲望=ビジョンを持ったリーダーの存在が不可欠であるという意見で一致した。

別の参加者は、「人間の領域」として残るのは、予測不可能性や“かわいげ”、そしてオリジナリティだと指摘。特に、各企業の持つ固有のデータや資産の違いが強みになることを、仙禽の杜氏が語った「千の蔵がそれぞれ持つ、麹のオリジナリティ」とひもづけて予想した。

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あるグループでは、AIを効率化ツールに終わらせないための取り組みが語られた。参加者の一人は、AI導入の先駆者的企業でありながら、一部プロセスの「効率化」から、プロダクトの「ソリューション」への飛躍が難しいと本音を吐露。他の参加者たちも自社・業界におけるAI導入のボトルネックについて率直な意見を交わした。

その中でメンバーの課題意識が一致したのが、AI浸透の最大の壁が「企業のカルチャー」だということ。形だけの組織改革を行っても、実装を左右するのはあくまでも「心理と文化」だ。AIに自分の仕事を評価されることへの反発を招くし、上司がAI活用に対して嫌な顔をすれば部下は使わなくなってしまう。AIに書かせた「魂の入っていない企画書」も士気の低下につながると述べた。

もう一つの欠かせない論点が、人材育成だ。「AIは仮説をつくれるが、どの仮説を選ぶかを判断できる人材を育てなければならない」「応用力のある人間を育てるのが難しい」という声が上がり、いくつかの業界で人材の質が下がり始めているといった課題も語られた。

グループごとに異なる議論に見えて、共通していたテーマもある。「AIを単なる現場の効率化ツールにはしない」「企業のビジネスモデルや組織のあり方自体を変革しなければならない」「そのためには経営層などリーダーのコミットメントが最重要である」という、リーダーたちの強い使命感だ。

自社の伝統的な強みを継承しながら、AIで新しい価値を創造する。歴史ある酒蔵の澄み切った空気の中で行われた対話を通じて、それぞれが描く未来像の輪郭は、少しずつ鮮明になっていった。

すべてのアーキテクチャーは「AIが使う」ことが前提になってゆく

ワークショップの後、日本IBM 執行役員兼技術理事 技術戦略本部統括の藤田一郎から、IBMが「Client Zero」として取り組んできた自社のDX・AI実装のプロセスが紹介された。

藤田は、1964年のメインフレーム、1993年のオープン化とインターネット、そして現在のAIという約30年周期で起きてきた技術変革を振り返りながら、AIは単なる新たなツールではなく、企業活動の前提を変える大きな転換点だと説明した。

「これからの時代は、人がシステムを操作することを前提とした従来の仕組みから、AIが業務やシステムを利用することを前提としたアーキテクチャーへ移行していく。そのためには、個別業務へのAI導入だけではなく、業務プロセスや組織のあり方そのものを見直す視点が必要です」(藤田)

さらに藤田は、AI時代の変革において重要なのは、すべてを新しく置き換えることではなく、自社が持つ資産を見極めながら、変えるべきものと残すべきものを判断することだと語った。

IBMは、AIとハイブリッドクラウドを軸に企業変革を進めている。その取り組みを通じて見えてきたのは、技術そのものではなく、技術を生かすための業務、組織、文化、IT基盤をどう整えるかという視点である。

伝統を守りながら新たな価値を生み出してきた仙禽の姿勢と同じく、AI時代に企業が問われているのも、何を受け継ぎ、何を変えていくのかという判断なのかもしれない。

変化のスピードが加速する時代だからこそ、企業が培ってきた強みや価値を見つめ直し、それを未来の価値創造へつなげていく視点が求められる。仙禽の酒造りから始まった今回の対話は、AI時代における企業の進化のあり方を考える時間となった。


日本IBMが描くAIの成長戦略

https://www.ibm.com/jp-ja/campaign/ibm-and-ai-strategy

Promoted by IBM | photographs by Kenta Yoshizawa | | text by Shunichi Ueno | edited by Hibiki Matsuyama(PlayceCUBE)

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