人事(HR)部門は今、「変革か衰退か」の岐路に立たされている。21世紀の始まりから続いてきた戦略、組織構造、サービス、マインドセットは、もはや通用しない。ビジネスの加速、人間とAIエージェントが混在する労働力、拡大するスキルギャップ、そしてAIを駆使して並外れた成果を上げる従業員の登場に象徴される「AI実用化の時代」は、新たな人事機能を求めている。
企業におけるAI変革の加速は、あらゆる伝統的な人事機能、プロセス、業務に多大な影響を及ぼしている。特に、これまで人事担当者の時間の大部分を奪ってきたものの、現在はデジタルワーカーへと移行しつつある管理・運用業務への影響は大きい。知的な自動化技術の導入により、人事リーダーはエリートビジネスパートナーとして機能できるようになる。同時に、社内における「一つの事業」として人事を運営することも可能になる。そのサービスやツールは、経営陣やマネージャー、一般社員に自発的に活用されるものでなければならず、その成否は、伝統的な人事の重要業績評価指標(KPI)ではなく、ビジネスに与えたインパクトによって測定される。
この近代化への要請を無視すれば、深刻な結果を招くリスクがある。20世紀の運用モデルに固執し続ける人事部門は、経営参画の機会を失い、コンプライアンスのチェックリスト作成に終始するだけの、バックオフィスの「総務・労務課」へと格下げされる危険性がある。
一方で、この一世代に一度の再発明を乗り越えた先にあるメリットもまた、極めて大きい。人事を真のビジネス支援機能へと変革した最高人事責任者(CHRO)は、自社の価値創出の方程式において中心的な存在となる。この変革を正しく実行できた人事チームにとって、この取り組みは活力をもたらすものとなり、今後数十年にわたり価値創造者としての役割を確固たるものにする。
警告:行く手に立ちはだかる「S字カーブ」
現在、人事部門はAI主導のイノベーションにおける一連の「S字カーブ」に直面している。これは技術普及のプロセスを示すモデルであり、「緩やかな進歩」「普及拡大に伴う急激な加速」「新技術の成熟による平坦化」という3つのフェーズで構成される。
今回のS字カーブを牽引しているのはAIの絶え間ない進化だが、その導入はCHROの管轄領域全体に重大な影響を及ぼしている。
組織構造は、多くの若手社員を底辺に抱える「ピラミッド型(三角形)」から、底辺の新規採用者が少なく、中間にデジタルワーカーと高度なスキルを持つマネージャーが位置し、頂点に優秀なリーダーや専門家を擁する「ダイヤモンド型」へと移行しつつある。AIエージェントの管理は、働く人々の多くが習得しなければならないまったく新しいスキルだ。自動化によって、人間が長年行ってきた定型業務が代替されるにつれ、これまでにない規模での職務再設計が必要となっている。
この破壊的変化が、過去の人事変革と異なる点は何か。人事リーダーは、自部門の運用モデルを再構築すると同時に、全社的な視点から、新たなスキル獲得戦略(自社育成=build、外部人材の活用=borrow、採用=buy、ロボット・AIの導入=bot)、職務設計、要員計画、および学習・開発(L&D)能力を開発しなければならない。時間は刻一刻と過ぎている。現在のS字カーブの第1フェーズから第2フェーズへの移行期は、これまでの漸進的な思考や改善の延長では通用しなくなる転換点なのだ。
かつて「人事」と呼ばれた機能:なぜ新しいモデルが必要なのか
今日の人事機能の大部分は、現代人事の設計者と広く見なされているデイビッド・ウルリッチ(Dave Ulrich)が1990年代に先駆けて行った研究に基づいている。1996年の著書『Human Resource Champions』(邦訳:人事は変革のパートナー)の中で、ウルリッチは人事部門が果たすべき4つの役割を提唱した。それは、戦略的パートナー(人事をビジネス戦略に合致させる)、変革の推進者(組織の変革を管理する)、従業員の代弁者(従業員のニーズを代表する)、管理のエキスパート(人事業務を効率的に運営する)である。このフレームワークは、事業部門に配置されるHRビジネスパートナー(HRBP)、人事プログラムの設計を担うセンター・オブ・エクセレンス(CoE)、大規模な業務執行を行う人事シェアードサービス、および主要な管轄地域で個別の実務やコンプライアンスを担当する現地法人の人事という、広く採用されている「4本脚の椅子」の構造へと進化した。
このモデルの一部はいまも有効だが、数十年にわたるコスト圧力と、事業および労働力に関する際限のない新たなニーズにより、人事のサービス提供モデルは限界まで引き伸ばされている。以下の要因が、新たな人事戦略とサービス提供モデルの必要性を後押ししている。
1. 新しいタイプの労働力の台頭:AIエージェントの導入により、組織は現在、人間とデジタルの両方の労働力を抱えるようになっている。これにより「人間(Human)の資源」という概念は古くなり、人事部門がカバーすべき根幹の領域を再定義する必要が生じている。
2. 組織の「背骨」のズレ:組織設計、職務設計、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)からなる人事の「背骨」が機能不全に陥っている。組織がどのように運営されるかを示すこれらの枠組み(いわゆる組織図の「箱と線」)は、近年ほとんど変化しておらず、それを抜本的に見直す勇気を持つ人事チームはごくわずかだ。
職務記述書は、価値創造のために組織が必要とするスキルのうち、「人間の手」に委ねるものと、意図的に「デジタルの手」に割り当てるものとを区別していない。この不備が、採用のミスマッチや優秀な人材の離職を引き起こし、生産性やエンゲージメントを低下させている。
3. 現行の人事KPIがビジネス価値に結びついていない:採用所要期間(Time-to-Hire)や研修修了率といったパフォーマンス測定指標は、ビジネスの成果とほとんど関連していない。CHROは、従来のコスト、効率、業務完了の指標を、ビジネスの業績に直結する重要な成果に置き換えるべきだ。それには、人材投資に対するリターン、職務の完全習得までに要する期間、業績目標を達成した従業員の割合、社内ネット・プロモーター・スコア(NPS)などが含まれる。現在人事が簡単に測定・管理できることではなく、企業の売上や利益に直接的な影響を与える成果に注目すべきである。
4. 高給の人事プロフェッショナルが低付加価値の業務に時間を費やしすぎている:過去3年間にグローバル企業と共同で実施した30件以上の「フェーズ0人事活動評価」に基づくと、CHRO配下のすべての役職が行う業務の60%から95%は、管理業務やオペレーション業務に分類されると推定される。これは、極めて優秀なHRBPや、CoEの高度な専門家が行う業務であっても同様である。
なぜ信頼性は「ビジネスへの理解度」にかかっているのか
APQCのベンチマーク基準とプロティビティの知的財産を組み合わせた、レベル3〜4の業務に関する標準的な人事プロセスタクソノミーに基づくと、人事の職務には約1,200から1,300の活動レベルのタスクがあると推定される。これらのタスク全体で、すでに世界中の企業が何百ものAIユースケースを慎重に構築しており、主要なテクノロジープラットフォームによって実現されている。人事の業務を再考し、創出した余力をビジネス現場に還元する上で、今ほど絶好の機会はない。
そのためには、人事を単なるサポート機能と見なすのではなく、価値創造を受け入れなければならない。コンプライアンスを最優先するコストセンターではなく、人事は、人材とデジタルリソースへの組織の巨額投資を事業起点で管理する存在であり、戦略的な労働力変革の設計者として機能すべきである。人事部門はビジネスニーズに対応する受動的な立場から脱却し、必要な要件を先回りして予測しながら、事業部門と一体となって未来の働き方を形作っていくべきである。
何よりも、今後10年間における人事部門の信頼性は、人事に関する知識の深さではなく、ビジネスへの理解度(ビジネス・フルエンシー)にかかっている。



