中国語作品の『京天吃什么』を翻訳ツールで読んだ板谷さんは次のように感じたという。
「作品では、京都での留学生活で食べた『食』の記憶と日々の苦悩や喜びが描かれていました。
移民として暮らす自分、コンビニバイトで日本人客に怒られたこと、貧しい在日朝鮮人のつくった料理、価値観がずれていく中国の旧友との会話、鴨川の川面のきらめき、風に揺れるススキの穂、一筋縄ではいかない留学生活、節約のため割引された激安おにぎりを食べる描写など、豊かな感情表現と情景描写が巧みだと思いました。
他国の方が描いた、自分が体験したことのない世界に、これほど共感できるものなのかと驚きました」
さらに板谷さんはZONさんの連載を決めた理由についてこう話す。
「『京天吃什么』では、すでに<街×ご飯×移民の暮らし>という現在の連載につながるフォーマットが完成されていました。その後、ZONさんも留学を終え、社会人目線も獲得しており、より深みのある表現ができると考えました」
当日の対談のなかでは、ZONさんは自分の創作スタイルは、実際に街を散歩しながら体験したことや観察が核となり、自身の外国人としての体験や、それぞれ個性の異なる東京各地の街の特徴が色濃く反映された「半フィクション」だと語った。
そして、街で見かける人々を観察し、「もし話しかけたらどうなるか」と想像を膨らませながら登場人物のキャラクターや物語を創作しているという。
『ニーハオ、おいしい中国日和。』は、自分が食べることが好きで始まったが、「出会った人」「食べたもの」「その町に来た理由」の組み合わせでストーリーを展開し、直感で「その日に食べたくなったもの」を決めているそうだ。
浅野いにおや水木しげるに影響
イベントの後日、筆者はZONさんにいくつかの質問をしている。
まず中国の漫画事情で、そもそも中国の若い人たちはどうやって日本の漫画を読んでいるのだろう。彼女はこう答えてくれた。
「2010年頃までは、『NARUTO -ナルト-』や『ドラえもん』のような超人気作を除き、マイナーな作品や青年向け漫画の多くは海賊版で読まれていました。汉化组(漢化組)と呼ばれるボランティアで作品の翻訳を行う有志が、海賊版サイトやブログに勝手にアップロードしていたのです。
しかし近年では、多くの日本漫画が正式にライセンス契約(正規配信)されて読めるようになり、汉化组の時代は終わりを迎えつつあります」
「個人的に好きな漫画家は」という筆者の問いに、ZONさんは『ヨコハマ買い出し紀行』の芦奈野ひとしや押見修造、志村貴子の名を挙げている。
「芦奈野ひとし先生の世界観や空気感が好きで、美しくて、どこか哲学的なところも素敵です。押見修造先生の独特の感覚や心理描写、人間の内面をむき出しに描いているところもすごいと思います。また志村貴子先生の作品も繊細な描写が魅力的で、さまざまな年齢や性別の人たちの恋愛を描いているところが素晴らしいです」
イベントでの対談中では、ZONさんは自身の作品の背景描写は、浅野いにおや水木しげるに影響を受けたとも話していた。どんなところに影響を受けたのか聞いてみた。


