アジア

2026.08.27 15:15

若手女優の発言が火をつけた韓国の日本統治時代に端を発する大問題とは

女優ハ・ヨン(Photo by Han Myung-Gu/WireImage)

韓国社会の分配的正義をめぐる課題

今回の騒動が世論の反感を強く呼んだ最大の理由は、親日派の子孫と独立運動家の子孫との間にある、あまりに対照的な現実だ。

advertisement

韓国の毎日新聞(韓国)などの報道によれば、光復81周年を迎えてもなお、独立運動家の子孫の約半数が月収200万ウォン(日本円で約22万円程度)にも満たない生活を送っているという調査結果もある。

日本統治時代、隣人を売って利益を得たり、日本への留学や土地取得によって富を築いたりした人々の子孫が、解放(終戦)後も引き続き富裕層・既得権層としての地位を保った一方、独立運動のために私財を投じた家庭は困窮を続け、その貧しさが世代を超えて連鎖している、というのが韓国社会に根強く残る問題意識である。

実際、前述のように、イ・ジアの祖父キム・スンフンのケースでは、還収対象とされる約350億ウォン(時価換算では1000億ウォン規模とも言われる)の土地が、謝罪表明から1年半以上を経た現在も政府に還収されておらず、大統領に報告された未還収の親日財産1500億ウォンの中にもこの分は含まれていないという指摘が独立系メディアによってなされている。

advertisement

制度と実際の運用との間に大きな溝があることが、今回の騒動でも改めて浮き彫りになった形だ。

もっとも、この件をめぐっては異なる見方も存在する。一部の論者は「親日・反日という枠組みで世論を分断し、政治的に利用しようとする動きこそ問題だ」とし、単純なレッテル貼りに警鐘を鳴らす声もある。

また、当該人物の行為が法的に「親日反民族行為」と確定しているかどうかは、今後の調査委員会の判断を待つ必要があるとの指摘もある。

1人の若手女優の何気ない「家族自慢」から始まった騒動は、韓国社会が抱え続ける「清算されない過去」という根深いテーマを再び浮かび上がらせた。

親日財産の還収を求める特別法が動き出し、独立運動家の子孫の生活支援が政治課題として語られるなか、今回の一件は、単なる芸能スキャンダルではなく、光復から81年を経てなお続く韓国の歴史認識と社会正義をめぐる議論の縮図と言えるだろう。

こうした反応を「反日感情の高まり」とだけ捉えるのは一面的かもしれない。今回の騒動で韓国世論が強く反応したのは、日本という国そのものへの反発というより、自国の近代史のなかで「誰が得をし、誰が犠牲になったのか」という国内の公正さの問題としての側面が大きい。

独立運動家の子孫の生活困窮と、統治協力者の子孫の相対的な豊かさという対比は、日本による統治の歴史的評価とは別の次元で、韓国社会内部の分配的正義(distributive justice)をめぐる長年の課題として存在してきた。

今回の一件が、今後、特別法の実効性や芸能界における家族史の語られ方にどのような変化をもたらすのか、ひき続き注視する必要があるだろう。

ちなみに、大きな波紋を引き起こした女優ハ・ヨンの曽祖父である「アン・サンホ」の名前は、いまのところ国家が公式に確定した親日反民族行為者のリストには含まれていない。

文=アン・ヨンヒ

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事