FIT(固定価格買取制度)終了に伴い転換期を迎える低圧太陽光発電所。放置のリスクが高まるなか、エレビスタはNTTアノードエナジー、ジャックスとともに、買取からリパワリング、売電までを一括支援する新体制を始動。発電所の価値を再定義し、アグリゲーションとファイナンスを統合するこの取り組みは、日本のエネルギー構造にどのような変化をもたらすのか。
FIT終了後に問われる、再エネ電源の持続可能性
再生可能エネルギー事業を展開するエレビスタ 代表取締役 石野拓弥(以下、石野)は、自社が太陽光発電事業に取り組む根底には、「インフラを未来へ残す」という長期的な視点があると語る。
「私たちが世代を超えて未来へつないでいけるような、100年、300年先も社会に残るインフラを創っていきたい。炭素から再生可能エネルギーへシフトしていく過程で、そこに直接貢献できているのが太陽光発電です」
一方、太陽光発電を取り巻く環境は、今後制度上の大きな節目を迎える。2012年に始まったFIT制度は、2032年から順次、20年間の買取期間を終えていく。石野が危機感を抱くのは、その後に起こり得る変化だ。制度終了からの約5年間で、全国のFIT事業用太陽光導入量(約60ギガワット)の半数近くに相当する約29ギガワットの発電所が買取期間を満了し、売電先の不在や設備の老朽化による稼働停止・放置のリスクに晒される懸念がある。
「約29ギガワットというと、設備容量ベースで原子力発電所約30基分に相当する規模です。しかし現実には、生成AIの普及やデータセンターの新設などにより、今後は電力需要の増加が見込まれています。新しい電源を短期間で増やすことが難しいという現実を前に、今ある再エネ電源まで失ってしまっていいのか。既存の発電所を維持し、できるだけ長く活用していくことが重要だと考えています」
既存電源の維持が急務となる背景には、日本のエネルギー自給率の低さもある。農林水産省によると、カロリーベースの食料自給率は令和5年度(2023年度)で38%であるのに対し、資源エネルギー庁の統計ではエネルギー自給率は同年度で15.3%にとどまる。東日本大震災のあとは、原子力発電所の停止により自給率は2014年度に過去最低の6.3%まで落ち込んだが、その後はFIT制度による再生可能エネルギーの普及と原子力発電所の再稼働により回復してきた。
一方で、再エネを巡っては開発に伴う環境負荷を懸念する指摘も少なくない。こうした論点に対し、石野は太陽光発電の実態を冷静に見極める必要性を説く。
「一部の不適切な開発事例がニュースで取り上げられることで、太陽光発電全体が環境を壊しているようなイメージをもたれてしまうことがあります。ですが本来、無闇に山の斜面を切り開いて建てるような手法は事業者にとっても合理性がなく、太陽光発電の本質ではありません。実際に日本の国土の約7割を占める山林において、太陽光開発には、地域との共生、災害リスク、景観、設備廃棄など、正面から向き合わなければならない課題があります。だからこそすでに適切に設置された発電所を維持・再生し、長く使うことに大きな価値があると考えています。
そのうえで本質的に見れば、日本全体でエネルギー自給率を引き上げていく必要があります。それはカーボンニュートラルという目標以前に、国のエネルギー基盤を考えるうえで欠かせないテーマです。今ある適切な電源を無駄に減らさず、維持・活用していく視点が不可欠だと、私たちは考えています」
個人所有の発電所を支える3社連携の仕組み
全国に存在する低圧太陽光発電所を、FIT終了後も持続可能な電源として活用していく──その課題にエレビスタが打ち出したのが、NTTアノードエナジー、ジャックスとの3社連携によるワンストップスキームだ。
「新たな電源を増やすというより、まず『減らさない』ための施策です。失われる可能性のある電源を少しでも維持し、さらにリパワリングによって発電能力を高めていく。それが今回の目的です」
その背景には、After FIT期における最大の課題である「個人所有の低圧発電所が全国に細かく分散している」という実態がある。大規模な事業用発電所と異なり、個人では制度終了後の複雑な電力取引や修繕資金の調達を単独で行うことが難しい。この構造的ハードルをクリアすべく構築されたのが、3社の強みを相互に補完し合うエコシステムである。
まず、案件の発掘や評価、売買支援、購入後の保守(O&M)や管理をエレビスタが担う。同社は日本最大級の太陽光発電所売買プラットフォーム「SOLSEL(ソルセル)」を運営し、これまで取扱総額2,800億円超と数多くの個人オーナーの資産運用や売却を支援してきた実績をもつ。同社の特徴は、太陽光発電所を単なる設備として扱うのではなく、デジタルを通じて全国のオーナーと直接接点を築いてきた点にある。Webマーケティングで培った顧客接点の構築力を、分散する発電所の集約力へと転換してきた。そこに売買、評価、O&M、電力販売、ファイナンスをつなげることで、既存のエネルギー業界とは異なるポジションを築こうとしている。
「構造的に大手企業はBtoBに強い反面、個人オーナーというC層への直接的なアプローチにはハードルがあります。そこに私たちが介在することで、スムーズなアプローチと案件形成が可能になります」
一方、買い取られた電力の確実な受け皿(オフテイク)となるのがNTTアノードエナジー。日本全体の電力の約1%を消費するといわれるNTTグループの強大な需要基盤を生かし、長期的な電力の買取やリパワリングを担保する。FIT終了後の発電所にとって最大の壁となる「つくった電気の行き先」を国家規模の需要基盤で保証することで、持続可能な運営を強固に後押しする仕組みだ。
そして、発電所の取得やリパワリングに必要な資金面を支えるのが、ジャックスだ。FIT終了後の発電所取得や設備更新にあたり、個人や事業者が直面する資金調達の課題に対し、ローンや立替払(割賦)契約などの選択肢を提供する。
特徴的なのは、このスキームが特定の事業者だけで完結する仕組みではないことだ。石野は「選択の自由を確保し、市場をオープンかつ透明にする設計にしている」と語る。電力の売却先を確保しながらも、より良い条件を提示する事業者があれば、オーナーがそちらを選択できる余地を残す。発電所の継続的な活用を支えると同時に、再エネ市場における健全な競争を促すことも、本取り組みが目指す狙いである。
既存電源を生かし、次のエネルギー基盤へ
共創エコシステムの中核となるのが、買取後のリパワリングというアプローチ。ただし、エレビスタが想定するリパワリングは、既存設備を一律に最新のものへ刷新することではない。発電所ごとの状態や発電実績を踏まえ、どこまで手を加えることが経済合理性につながるのかを見極めていく。
「実は、パネルや電気を変換・制御するパワーコンディショナーの耐久性は予想以上に高いのです。適切な維持管理によりパネルは30年以上もちますし、劣化のペースも緩やかで、長期間使用しても発電量の低下は一定程度にとどまります。それに対して、精密機器であるパワーコンディショナーはパネルよりも先に交換時期を迎える傾向があります。そのため、一部の部品交換や部分的な刷新で十分な場合もある。ユーザーメリットを最優先にしながら、どのような組み合わせが最適なのか、現在テストマーケティングを重ねています」
さらに同社が見据えるのが、こうした個々の発電所のリパワリングを、次なるステップであるエネルギー需給の最適化へと拡大させていくことだ。
「蓄電池が普及したことで、これまで以上に大規模な電力を貯め、必要なタイミングで使うことが可能になりました。太陽光で発電したものの使い切れなかった電力を蓄電池に貯め、需要と供給に応じて活用する。オーナーチェンジのタイミングでこうした仕組みを組み込むことで、発電所を長く安定して活用できるようになります」
エレビスタは並行して、SPC(特別目的会社)を活用した蓄電池事業にも取り組み、高圧・低圧・特別高圧の各領域で事業拡大を進める。その到達点として描くのが、欧米で先行するエネルギーとソフトウェアを組み合わせた仕組みを日本市場でも展開し、複数の分散型電源を束ねて需給を調整するVPP(バーチャルパワープラント)へとつなげていく構想である。
エネルギーの新たな仕組みをつくる、その担い手へ

一連の取り組みを経て、石野がその先で目指すのは、エネルギーの「つくり手」と「使い手」の距離が近づく社会の姿だ。
「電力の地産地消やVPPが広がれば、誰がどこでつくったエネルギーを使っているのかが実感できるようになります。投資家だけでなく、供給する側も使う側も互いに価値を享受できる社会へ変えていきたいと考えています」
現在、同社はテストマーケティングを重ねながら、来年度からの本格展開に向けた体制づくりを進めている。事業を拡大していくうえで、石野が重要だと考えているのが、新たな人材の参画だ。
「エネルギー業界は、採用市場では必ずしも目立つ分野ではないかもしれません。ただ、日本のエネルギーを取り巻く環境は今、大きく変わろうとしています。2040年に向けて再生可能エネルギーの比率を高めていくなかで、既存の仕組みも変えていかなければならない。その変化に事業を通じて直接関われることは、私たちのようなベンチャーで働く面白さのひとつだと思っています」
エレビスタでは、入社時点でエネルギー業界の専門知識を必須とはしていない。実際、現在のメンバーの多くも未経験からスタートしたという。では、同社が求めているのはどのような人材なのか。
「私たちがつくりたいのは、発電所を売買する会社ではなく、全国に分散する電源を束ね、金融、需要、テクノロジーをつなぐエネルギープラットフォームです。すでに正解が用意されている仕事ではありません。だからこそ、業界経験以上に、課題を構造化し、周囲を巻き込み、最後まで仕組みとして実装できる人。そして、まだ答えが決まっていない領域で、自ら考え、動けることです。インフラという社会に欠かせない領域で、新しい仕組みをつくっていく。その過程を面白いと思える方と、一緒に事業をつくっていきたいですね」
FIT買取期間満了後という課題への対応から、リパワリング、蓄電池、そしてVPPへ。既存の発電所を生かしながら、新たなエネルギーの流れをどうつくるか。エレビスタが向き合っているのは、単に目の前の価値を提供し続けることにとどまらない、これからの市場の仕組みそのものの創出といえるだろう。
いしの・たくや◎エレビスタ代表取締役。2009年から起業17年目の連続起業家。Webマーケティングなど複数の事業立ち上げを経て、12年にエレビスタを設立。太陽光発電所の売買プラットフォーム「SOLSEL」を手がけるほか、VPP(バーチャルパワープラント)構想を見据えた蓄電池事業など、再エネ分野における新たなインフラ構築を推進する。



