長期の米国債利回りが急騰し、銀行業界の勢力図が塗り替わりつつある。安定した預金と満期の短い資産を持つ銀行には追い風が吹く。逆に、金利が固定されたまま長く残る資産を抱え、資金調達の基盤が脆い銀行は、弱点をさらけ出すことになる。
スコット・ベッセント財務長官の下で財務省が発行済みの米国債を市場から買い戻す動きを眺めていると、ニューヨーク連邦準備銀行の外国為替グループに在籍していた頃を思い出す。外国の中央銀行がどれほど激しく為替介入をして自国通貨を支えようとしても、市場を力ずくでねじ伏せることはできなかった。国債の買い戻しは為替介入とは手段が異なるが、そこから引き出せる教訓は同じだ。財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)が示す方針を市場が信じないかぎり、両者とも利回りの軌道を曲げることはできない。
利回りが急騰している原因は、FRBの手が届かないところにある。米国が抱える債務の規模、イランでの戦争、そして関税政策をめぐる不透明さだ。どれ1つ決着していない。債務も戦争も関税もFRBではなく議会の責任である。米国の議員たちは、そのことを思い出すべきだ。
米国債の高い利回りは、銀行に恵みと重荷を同時にもたらす
米国債の高い利回りは、銀行にとって恵みであると同時に重荷でもある。決定的に重要なのは、FRBが動かす短期の政策金利と、市場が決める長期債の利回りを分けて考えることだ。償還までの期間が長い国債の利回りは現在、異例の高さにある。これが重い意味を持つのは、銀行のバランスシートをほぼ全面的に揺さぶるからだ。市場で運用する有価証券、自己資本比率、住宅ローンの貸し出し、長期資金を調達するコスト。そのいずれもが影響を受ける。
米国債の利回りが高い状態は、銀行の各項目にどう作用するのか。整理すると次のようになる。
表1 米国債の高い利回りが銀行に及ぼす影響
項目:利回りが高いときの動き(銀行にとっての評価)
新規に実行する融資の受取利息:増える(プラス)
新規に買う有価証券の受取利息:増える(プラス)
純金利マージン:増える可能性がある(プラス)
満期を迎えた有価証券の再投資:より高い利回りで回せる(プラス)
預金の調達コスト:上がる(マイナス)
すでに保有する米国債の価値:下がる(マイナス)
有価証券の含み損:膨らむ(マイナス)
自己資本比率:悪化しうる(マイナス)
流動性リスク:高まりうる(マイナス)
資金需要:減る(マイナス)
信用損失:増える可能性がある(マイナス)
新規に実行する融資と債券投資が、銀行の利ざやをまず押し上げる
銀行が新たに7%で企業向け融資を実行し、5%で米国債を買い、かつてより高い金利で住宅ローンを組成すれば、低金利時代とは比べものにならない収益を得る。受取利息から支払利息を差し引いた純金利収入は増え、場合によっては、資産あたりの利ざやを示す純金利マージンも改善する。
金利が上がれば、銀行の受取利息は総じて増える。変動金利の融資は適用金利が上方へ見直され、新たに買う債券も高い利回りで積み上がる一方、預金に払うコストの上昇はもっと緩やかだからだ。変動金利で企業に貸す融資を多く抱え、支払う金利が低く動きにくいコア預金を持ち、満期が近い債券を保有し、長期にわたる固定金利貸し出しが少ない銀行にとって、この構図はとりわけ好ましい。
預金金利の上昇は遅れて効き、利ざやを後から削っていく
預金金利がいずれ上がるという問題は、銀行に投資する側にとって、現在おそらく最も重要な論点だ。米国債の利回りが上がれば、預金者は銀行の外側でも魅力的な利回りを手にできるようになる。銀行が普通預金に1%しか付けていない一方で、償還までの期間が1年以内の短期国債(Tビル)は4~5%の利回りを出している。それなら預金者には、動くだけの動機が十分にある。短期の運用商品であるMMF(マネー・マーケット・ファンド)へ資金を移す、Tビルを自分で直接買う、日本の定期預金にあたるCD(預金証書)の金利引き上げを銀行に求める、他行へ乗り換える。どれを選んでもおかしくない。
預金者が動けば、銀行は資金調達により高いコストを払わざるをえない。預金は銀行が抱える負債のおよそ3分の2を占める。だから預金が流出したり、預金金利を引き上げたりすれば、収益力は目に見えて削られる。しかも、そこには時間差があることが多い。まず収益が改善し、その後で預金が高い金利に切り替わり、利ざやが圧迫される。高金利の恩恵が、いつまでも続くわけではない。



