保有する米国債の含み損は、預金流出をきっかけに自己資本を削る
ここまでは収益面の話だが、資産の側には逆向きの力が働く。すでに保有している米国債が値下がりするのだ。2023年に破綻したシリコンバレー銀行に聞いてみればいい。利回り2%で10年債を買った銀行にとって、10年債利回りが現在4.7%なら、買った当時の債券は価値が大きく目減りしている。現金を失ったわけではない。利息は予定どおり受け取れるし、満期には額面どおり償還される。それでも時価は下がっており、流動性を確保するために売却を迫られたとき、銀行はそれがどれほど痛いかを思い知る。
FRBはこの含み損の問題を繰り返し警告してきた。2024年末時点で、途中売却もありうるとして時価で評価する売却可能有価証券(AFS)は、時価が簿価を1820億ドル下回っていた(約28兆9380億円)。満期まで持ち切る前提の満期保有目的有価証券(HTM)は、2970億ドル(約47兆2230億円)下回っていた。AFSの含み損はその後に縮んだが、それでも小さくはない。FRBは2025年末時点で、AFSの含み損がおよそ980億ドル(約15兆5820億円)あったと報告している。2026年に長期金利が上がり続ければ、この含み損は再び膨らみかねない。
含み損が実現損に変わる引き金は、預金者による払い戻し要求だ
シリコンバレー銀行が残した教訓が効いてくるのは、ここからだ。ある銀行が利回り2%で10年債を100億ドル(約1兆5900億円)買い、その後に利回りが5%まで上がったとしよう。この債券の時価は75億~85億ドル(約1兆1925億円~約1兆3515億円)まで落ちているかもしれない。売らずに済むのなら、満期まで持ち切って100億ドル(約1兆5900億円)を丸ごと回収できる。だが預金者が突然払い戻しを求めれば、銀行は売却を迫られる。帳簿上の含み損は売った瞬間に実現損へ変わり、実現損は自己資本の毀損へと姿を変える。
米国債の高い利回りが本当に危ないのは、満期までの期間が長い資産と不安定な預金を抱える銀行だ。満期が近い資産と安定した預金を持つ銀行とは、危険度がまるで異なる。
銀行は高い金利を取れるようになるが、借りたい客が減っていく
米国債の利回りは、住宅ローンから企業向け融資まで、ほかの多くの金利にとって基準となる。10年債が4.7%前後、30年債が5.2%前後という水準では、銀行は住宅ローン、商業用不動産融資、企業向け融資、消費者ローンのいずれについても、借り手から受け取る金利を引き上げざるをえない。その結果として資金需要は冷え込む。
銀行にとって、これは逆説だ。融資からより多くの利息を取れるのに、借りたいという客が減っていく。しかも金利が上がるほど、変動金利で借りている先や、2026年中に適用金利の見直しを迎える先が返済不能に陥る確率は高まる。
30年固定の住宅ローンを抱える銀行より、変動金利で貸す銀行が有利だ
米国での例として、30年固定の住宅ローンを大量に抱える銀行を考えてみよう。その多くは3~4%で組成されたものだ。この銀行は昔に貸した住宅ローンから低い利回りしか得られないのに、資金調達コストは上がっていく。たちの悪い組み合わせだ。これに対し、変動金利で企業に貸している銀行は、はるかに速く適用金利を引き上げられる。利回りが高い局面では、金利が固定されたまま満期までの期間が長い資産よりも、満期が近く金利が動く資産のほうが有利になる。


