AIデータ戦争が公開ウェブの外へ向かった理由
なぜ、消滅した会社の電子メールに何百万ドルもの金を払うのか。それは、AIモデルは読むことで学ぶが、その読む材料が尽きかけているからだ。AI企業は長年、ウェブサイト、書籍、フォーラム、コードといった公開インターネット上の情報源をもとにモデルを構築してきた。だが、この供給源には上限があり、しかも死角がある。BTUAIによれば、世界の知識のうちデジタル化されたものは15%程度にすぎず、検索できるものはそれよりはるかに少ない。だからこそ、公開ウェブの外側にあるものすべてが、次のデータの開拓地になる。
公開インターネットからわかるのは、企業が自社について何を語っているかである。企業が実際にどう動いているかは、そこにはほとんど表れない。
スピリット航空のような保管データには、仕事が進んでいくその過程がそのまま記録されている。
例えば、収益部門のチームが運賃の変更をめぐって電子メールで議論している場面。整備上の問題がMicrosoft Teamsのスレッドをたどって上層部へ上がっていく場面。あるいは、マーケティングの新施策が共有ドキュメントを行き来しながら形になっていく場面である。実地の、そして本物のやり取りであるという点で、これは中身の濃いデータだ。現実の企業の仕事をこなせるようAIに教え込もうとするなら、意思決定と、調整のやり取りと、実際に犯した失敗の記録は、公開インターネットに残されたものよりも価値がある。ブルームバーグ・ローによれば、グーグルはこのデータが自社の製品とAIモデルの改善につながると述べている。
AIデータ戦争の細則にひそむ匿名化の条件
この取引にはプライバシーを守る仕組みが付いており、それはかみ砕いて説明しておく価値がある。グーグルがデータを受け取る前に、第三者が保管データの匿名化処理を行う。つまり、氏名や住所など、特定の個人を指し示す情報を取り除くということだ。グーグルは、この処理を逆にたどって個人を特定し直さないことに同意している。
だが、ここに落とし穴がある。
売買契約は、記録同士のつながりをそのまま残すことを求めている。1人の従業員のやり取りを、電子メール、チャット、ファイルをまたいで追いかけられるからこそ、このデータは学習用として価値を持つからだ。そして、この残されたつながりこそが、客室乗務員の労働組合が懸念している点である。組合は、1万7000人の従業員のうち特定の個人が、やり取りのパターンから再び特定されかねないとして、正式に異議を申し立てた。破産裁判所の判事は、承認の審理を2026年9月9日に延期した。
それまでの間、グーグルが手にしているのは落札という結果であって、データそのものではない。


