この構造を受け、同社は取引先を巻き込んだ環境対策を、本格化させています。主要な縫製・素材工場に対して石炭使用から再生可能エネルギーへの転換を働きかけるとともに、30年までに全使用素材の約50%をリサイクル素材などの環境負荷が低い素材に切り替える目標を掲げるなど、サプライチェーン全体での脱炭素を推進しています。
鶴が秘密のベールに包んで反物を織っていた部屋を「見える化」する流れは、労働環境を守るだけでなく、サプライチェーン上の温室効果ガスの在り処を特定し、真の脱炭素に踏み出すために不可欠な工程でもあったのです。
原価も縫製工場も見せる、透明性を武器にするブランドの台頭
情報開示を企業としての「責務」から「強み」へと変えたのが、原価や背景を丸ごと公開するブランドです。米国発のアパレルブランドEverlaneは、商品ページに素材費や縫製費、関税、輸送費などといった原価の内訳を表示しています。
日本国内では、熊本発のファクトリエ(Factelier)が、日本各地の縫製工場と直接つながり、積極的に情報開示を行う体制を築いてきました。商品には製造を担当した工場名を表示し、工場とそこで働く人々が適正な利益を得られるように、提携工場がファクトリエへの卸価格にあたる「工場希望価格」を自ら提示できる仕組みを採用。中間業者を介さず、工場と直接提携して商品をつくり、消費者に届けることで販売価格を抑制する構造です。誰が、どのようにつくり、どんな経路で消費者の手元に届くのか、それを隠すのではなくオープンにする姿勢を、同社は前面に打ち出しています。
機織り部屋の戸を開く——これからのアパレルに求められること
物語のラスト、正体を知られた鶴は、痩せ細った姿のまま夫婦に別れを告げ、空へと去っていきます。多くの人はこれを、切ない別れの物語として記憶しているでしょう。
けれど、鶴を追い詰めたのは「覗かれたこと」そのものではないでしょう。真の原因は、自らの身を削って羽をむしり取るような、秘密にしなければ成り立たない過酷で持続不可能な反物の生産方法にありました。
もし鶴が、自分自身も環境も傷つけない健全なやり方で布を織っていたとしたら——。あの機織り部屋の戸は、最初から開けたままでもよかったはずです。
労働環境を守り、サプライチェーンに潜む温室効果ガスを見える化して減らしていく取り組みは、同じ過ちを繰り返さないための「現代の戸の開き方」と言えるのかもしれません。
この連載では、広く読み継がれてきたポピュラーな物語を、独自の観点で解釈しています。
科学的な裏付けをベースにしていますが、厳密な調査や研究に基づく論文とは異なり、あくまで架空の読み物としてお楽しみください。


