新解釈『鶴の恩返し』で娘が去った意外な理由とは〜あの物語を「デカボ視点」で読んでみた#2

1100人死亡のラナ・プラザ崩落、露見した供給網の闇

『鶴の恩返し』では、「決して部屋を覗かないでください」という約束が守られるかどうかが、物語の転換点となりました。しかし現代のアパレル産業において、生産現場を「見せない部屋」のまま閉ざし続けることは、美談ではなく、過酷な労働や不正が放置される土壌をつくり、取り返しのつかない悲劇を招く要因となります。

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その象徴的な事件が、13年4月に起きたバングラデシュ・ダッカ近郊の縫製工場ビル「ラナ・プラザ」の崩落でした。1100人を超える命が奪われたこの事件。違法増築された建物での危険な操業と、ブランド側の厳しい短納期を恐れた工場側が、前日に見つかった壁の亀裂を無視して労働者を出社させたという人災でした。ビル内には複数の海外ブランド製品を請け負う工場が入居していましたが、ブランド側は当初「下請け工場の実態を把握していない」と説明。企業の無責任さやサプライチェーンの不透明性を問う国際社会からの非難が、相次ぎました。

この惨事をきっかけに、同年イギリスで非営利団体Fashion Revolutionが設立されます。そして翌14年から広がったのが、「Who Made My Clothes?(誰が私の服をつくったのか)」という問いを掲げるキャンペーンでした。消費者がSNS等でこの問いを投げかけ、ブランド側は現場で働く人々の姿を開示して応えました。覗くことを禁じられていた部屋に、消費者自身が光を差し込んだ瞬間でした。

これを契機に、世界中で「サプライチェーンの透明性」を求める機運が一気に高まりました。キーワードは「トレーサビリティ(追跡可能性)」と「ディスクロージャー(情報開示)」。かつて企業秘密として戸の奥に隠されていた現場を、自ら開いて見せることが、グローバル企業の責務となっていったのです。

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実際、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングは17年、主要な取引先である7カ国146の縫製工場リストの公開へと踏み切りました。

この課題は、グローバル企業だけの話ではありません。「メイド・イン・ジャパン」は世界で信頼される一方で、国内の縫製現場では外国人技能実習生の長時間労働や不当な待遇について、繰り返し指摘を受けてきました。こうした反省から、2022年には日本繊維産業連盟(繊産連)が業界向けの人権ガイドラインを策定し、企業に対してサプライチェーンをたどって人権リスクを点検する、「人権デューデリジェンス」を求めるようになりました。

見えない部屋には、排出量の9割が隠れていた

労働環境を点検可能にする措置として行われた「生産現場の見える化」でしたが、同時にもうひとつの課題、「地球温暖化(脱炭素)」に向き合うためのきっかけにもなりました。製品がどこでどのようにつくられているのかを特定できて初めて、そこでどれだけの温室効果ガス(GHG)が排出されているかを、正確に追跡できるようになるからです。

温室効果ガスの排出量を算定・開示する上で参照される国際的な基準「GHGプロトコル」では、排出量は3つに分類されます。自社の工場やオフィスでの燃料使用によって排出したGHG(スコープ1)と、他社から購入した電気や熱などを自社の施設で使用することで排出したGHG(スコープ2)、取引先を含めたサプライチェーン全体で排出されたGHG(スコープ3)です。

ファーストリテイリングが公表している2019年度のデータを見ると、自社内(スコープ1、2)での排出量が約31万トンなのに対し、サプライチェーン全体(スコープ3)での排出量は約550万トンに上りました。同社が関わるGHGの9割超が、同社の「外」で排出されていることがわかります。

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文=関根澄人

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「デカボ」で変わる世界の見え方」

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