天然素材=エコとは限らない? 素材別、環境負荷のリアル
まず、反物の素材に着目します。この物語の中で鶴が自らの羽を原料に織った反物は、生き物由来でした。ところが、いま私たちが着ている服の素材の大半は、生き物でも植物でもなくなってきているのです。世界の繊維生産量の59%(2024年、繊維業界団体Textile Exchange調べ)を占めるのは、ポリエステル。石油からつくられる、化石由来の糸です。
衣服に使われる化石由来、植物由来、動物由来の3つの素材について、環境への負荷を比べてみましょう。ポリエステルなどの化石由来の素材は、地中に眠っていた炭素を掘り出し、温室効果ガス(GHG)として大気中へ放出してしまううえ、製造にも多くのエネルギーを使います。洗うたびに微細な繊維が抜け落ちるマイクロプラスチックは、分解されることなく半永久的に自然環境に残り続けるという深刻な問題を抱えています。
一方で、綿や麻などといった植物由来の素材と比べ、生産に必要となる水や土地が少なくて済み、耐久性に優れているうえ、使い終わった後に回収して再び糸に戻すリサイクルの道が整備されているという強みもあります。
次に、植物由来の素材についてです。植物は成長過程で光合成を行い、大気中のCO2を吸収します。そのため、廃棄時にCO2が発生したとしても、「もともと大気にあった炭素を一時的に借りて戻しただけ(差し引きゼロ)」とみなすことができ、新しく地中から炭素を持ち出す化石燃料より地球への負荷は小さくなります。ただし、綿花などの植物栽培には膨大な量の水や農薬、広大な農地が不可欠であり、水不足や土壌汚染といった別の環境負荷を生み出しているという課題も抱えています。
羽毛や羊毛、革などの動物由来の素材も、炭素の出どころは生き物であるため、化石燃料のように新たな炭素を掘り出しているわけではありません。しかし、家畜の飼育プロセスで大きな環境負荷が発生します。牛や羊のげっぷからは、CO2の数十倍もの温室効果をもつメタンガスが排出されるほか、広大な放牧地やエサ・水といった膨大な資源を消費します。さらに環境問題にとどまらず、動物福祉という倫理的な課題も避けては通れません。
いずれかの素材が「正しい」というわけではなく、炭素に資源消費、メタン、プラスチック残留と、それぞれの素材が抱える環境負荷の種類が異なるという現実があります。
残酷な羽毛調達からの脱却、業界を変えた新たな基準
鶴が自分の羽を引き抜いて反物にすること。実は羽毛産業には、よく似た現実が存在します。ダウンジャケットや羽毛布団に使われる羽毛には、生きた水鳥から無理やり羽をむしり取る「ライブプラッキング」や、フォアグラ用に強制給餌された鳥から剥ぎ取られたものが、長らく市場に流通していました。
これに対し、2014年にアウトドアブランドのThe North Faceが繊維業界団体Textile Exchange、検査機関のControl Unionと提携し、「レスポンシブル・ダウン・スタンダード(RDS)」という認証制度を立ち上げます。生きた鳥からの羽毟りと強制給餌を禁じ、農場から最終製品に至るまでのルートを追跡し、一羽一羽の調達背景を明らかにする仕組みです。鶴の物語に置き換えるなら、機を織る部屋の戸を最初から外すだけでなく、鶴に痛みを強いずに反物を織る方法を確立した、ということです。
滋賀県米原市の羽毛メーカーNANGA(ナンガ)は、こうした倫理的で持続可能なスタンスを早くから取り入れた企業です。1941年に和布団の製造からスタートした同社は、現在も寝袋やダウンウェアを国内で縫製。原料である羽毛の仕入れ先を厳選・固定し、現場の社員が毎日その手で羽毛に触れ、わずかな品質の違いまで見極めています。同社の羽毛精製を担う河田フェザー(愛知県)は、日本の羽毛業界でいち早くRDS認証を取り入れた企業です。


